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最後のドラマ出演は『エール』…“紅の豚”森山周一郎さんと鼻っ柱を折ったドラゴンズの深い縁

2021年2月10日 10時33分

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森山周一郎さん

森山周一郎さん

  • 森山周一郎さん
  • 2005年のマスドラ会報の表紙で当時の落合監督と握手する森山周一郎会長

◇ヘンリー鈴木のスポーツ方丈記

 いつの間にか、その光景はマスドラ会の風物詩になっていました。マスコミ関係者が下位に低迷するドラゴンズを見かねて1985年に東京で結成した「われらマスコミ・ドラゴンズ会(通称マスドラ会)」。モットーが「熱烈&辛口応援」であることからも分かるように、東京に拠点を置く新聞、テレビ、ラジオ、出版社などの業界で「わたしはドラゴンズファンだ!」と声高く叫び続ける猛者たちの集まりは会員数が一時は200人を超え、ひと癖もふた癖もある個性派の人たちが顔をそろえていました。
 その中でも際立っていたのが、初代の深田祐介さん(作家)から2001年に会長を引き継いだ森山周一郎さんでした。マスドラ会は球場での応援のほかに冬はその1年間を反省する納会、春は新たなシーズンへの決起集会となる総会を行うのが恒例なのですが、声優や俳優として活躍されていた森山さんがあいさつを始めると、常にひと悶着あった。とにかく長いのです。
 あいさつは1時間近くに及ぶこともあり、乾杯のグラスを持ったまま立ちつくす会員たちが足をもじもじさせながら「長すぎるよ」「誰か止めろ」と、ひそひそ声で話し始める。ビールの泡がとっくに消え去っているにもかかわらず話し続ける森山さんに、司会者は壇上で毎回オタオタしていました。
 そんな光景も、森山さんが86歳で旅立たれた今では懐かしい思い出となってしまいました。長すぎるスピーチはドラゴンズの話が100%で、選手はもちろんのこと監督、コーチ、果てはフロントの姿勢まで、よくぞここまでチームを細かく見ているものだと、私も感心を通り越してあきれ返るほどでした。その背景には、高校時代の森山さんの強烈な野球体験があったと思います。
 愛知県の犬山高校で投手兼外野手としてプロを目指すほど自信にあふれていた森山さんが鼻っ柱を折られたのは、ドラゴンズと練習試合を行った時でした。1950年代はまだプロアマの壁もなく、高校生がプロと試合を行うことはよくありました。犬山高の3年先輩だった本田逸郎さんがドラゴンズに所属していた縁から実現した練習試合で、森山さんは西沢道夫、児玉利一、杉山悟ら当時の主力選手にメッタ打ちにされ、悩んだあげくにプロ野球の夢をあきらめて映画の道に進むことを決めたといいます。
 そのような経験があるから、あこがれだったドラゴンズのユニホームを着る選手や監督たちには愛情を注ぎながらも厳しかった。マスドラ会の4代目となる現会長で、TBSラジオ「こども電話相談室」の電話のお姉さんも務めていたフリーアナウンサーの平野市子さんは、スタンドでともに観戦していた時の様子をこのように振り返ります。
 「選手に向けて大声で声援を送ることがよくあって、それも頑張れとか通り一遍のものではなくて『もっと振れ』とか具体的な指示を出しているかのようでした。でも、あの独特の太い美声でしょ? 周りのお客さんは『あれは誰だ』と一斉にこっちを振り向いて、私も恥ずかしかった。観戦中は食べ物もほとんど口にせず、本当に真剣でした」
 ドラゴンズを愛し続けた森山さんは、2011年を限りにマスドラ会の会長を退いてからも名誉会長として応援を続けていました。私が最後にお会いしたのは3年前、神宮球場ネット裏の屋外喫煙所でした。煙草を吸いながら試合のモニターテレビを見ていた森山さんを見かけてあいさつすると、それから試合終了間際まで1時間近く、その場に立ったまま延々とドラゴンズの話をされていました。もちろん、聞いていた私の足はガクガクです。
 その後は体調を崩されたと聞いて心配していました。ただ、昨年はNHK連続テレビ小説「エール」に主人公・古山裕一の母方の祖父・権藤源蔵役として出演しているのを見て安心していたのですが…。最後に出演したドラマがドラゴンズの初代応援歌を作曲した古関裕而さんにまつわるものだったことも、森山さんとドラゴンズの深い縁を感じます。
 森山さん、ありがとうございました。これからはゆっくりと、でも時には厳しい目で、ドラゴンズを空から見守ってください。
 ◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長、同論説委員などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまでドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。マスドラ会の事務局員でもある。
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