<スポーツと用具の進化>前編 厚底シューズどう思う?

2020年5月3日 02時00分 (5月27日 03時52分更新)
 東京五輪・パラリンピックは延期されましたが、マラソン代表選手を決める選考レースでは、ナイキ社の「厚底シューズ」が大きな注目を浴びました。世界陸連があわててシューズに関するルールを定めたように、用具が競技の結果を左右する時代。今月の「Dig!」では、用具の進化を通してスポーツをする意味を考えます。

記録連発で話題

 「反発力を高めるプレートは一枚まで」「靴底の厚さは四センチ以下」「一般に市販されているもの」-。一月末、世界陸連が出した新ルールに、多くのトップランナーたちが安堵(あんど)した。三月の名古屋ウィメンズマラソンで新型の「超厚底」を使って五輪切符を手にした一山麻緒選手もその一人。「禁止と言われるより良かった」と胸をなで下ろした。
 東京五輪を前に巻き起こった厚底問題。男子のキプチョゲ選手(ケニア)や女子のコスゲイ選手(同)、日本の設楽悠太選手や大迫傑選手などが世界記録や日本記録を相次いで更新したことから、「シューズが助力している」との議論が起きた。
 正月の箱根駅伝でも八割以上の選手が使い、七つの区間新記録が出る異例のレースに。陸上の競技規則では「シューズは不正な付加的助力を与えてはならない」とあり、世界陸連は新規則の検討を始めたが、結局、現行モデルの使用は認める形で決着した。

高速水着は禁止

 用具の進化は、スポーツ界に議論を巻き起こしてきた歴史がある。二〇〇八年の北京五輪を前に登場した高速水着「レーザー・レーサー」は、着用した選手が次々と記録を更新。強烈な締め付けで水の抵抗を減らし、水中姿勢を維持できることから着用禁止となった。競泳界では当時の世界記録が今も多く残る。
 パラリンピック種目では、よりパフォーマンスに直結する。走り幅跳びのマルクス・レーム選手(ドイツ)は右足のカーボン製の義足で踏み切り、健常者の五輪メダリストを超える大ジャンプを繰り出す。本人は五輪で健常者と競うことを望むが、世界陸連は認めていない。義足が有利でないと証明できていないからだ。
 オリンピック憲章は「より速く、より高く、より強く」とうたうが、科学の進化とともに発展してきた近代スポーツは皮肉にも、モットーのようにシンプルではいられない。人間の限界を超えたことを証明する世界記録は人に感動を与えるが、そこに用具の性能が介在すると、同じ感動があるだろうか。自由にスポーツができない今こそ、スポーツの本質をじっくりと考えてみたい。
(宮崎厚志)
 <厚底シューズ> 2017年7月にナイキが発売した「ヴェイパーフライ」シリーズを代表とする高機能ランニングシューズ。高い反発力を生むカーボンプレートを特殊素材で挟んだ分厚い靴底により、それまで相反する要素だった推進力と衝撃吸収性を両立させた。他社も類似モデルを発売する中、ナイキは世界陸連の規定をギリギリで満たす新型「アルファフライ」(税抜き3万円)を投入した。

昨年9月の東京五輪マラソン代表選考会でナイキの厚底シューズを履く選手たち

◆はだしで速さ追究するランナーも

 厚底シューズは、名誉や収入とは無縁の市民ランナーにも広がっている。一方、靴に頼らない走り方を追究する動きも。2010年ごろに世界で急速に広まったはだしランニングだ。日本でも愛好者が増え続け、昨年のはだし限定の大会には約450人が参加した。
 近年、更新が続いているはだしフルマラソンの日本記録は、人間本来の身体能力を証明するという意味で大きな価値がある。昨年、2時間39分25秒を出した会社員の伊豆倉健城さんは、はだしで走る理由を「単純にシューズよりも速く走れるから」と説明する。1960年ローマ五輪でのアベベ・ビキラ(エチオピア)の金メダルは、はだしだったからこそ、五輪の歴史の名場面として人々の記憶に刻まれた。
 どこまでが人間の体か? 何のためにスポーツをするのか? 用具の進化からは、そんな問いも生まれてくる。

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