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日本の五輪リーダーたちはまずコミュニケーション力を磨くべきだと思う理由

2021年1月23日 11時11分

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(左から)菅義偉首相、小池百合子都知事、東京五輪・パラリンピック組織委員会・森喜朗会長

(左から)菅義偉首相、小池百合子都知事、東京五輪・パラリンピック組織委員会・森喜朗会長

◇ヘンリー鈴木のスポーツ方丈記


 菅義偉首相は通常国会が召集された今月18日の施政方針演説で、このように話しました。
 「夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい。感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現するとの決意の下、準備を進めてまいります」
 相変わらず「コロナに打ち勝った証」「○○の決意の下」などの言葉の羅列。総理大臣という立場からは、こう言うしかないのでしょう。うん、分かります。
 同じ日、小池百合子都知事は米ニューヨーク・タイムズ紙が「東京五輪の計画は日ごとに不確実になっている」と報じたことについて、こう言いました。
 「東京都はホストシティ。開催都市としての責任がある。それを粛々と進めていく。このことに変わりありません」
 都知事としての立場からは、それしか言えませんよね。分かります。
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、12日に都内で行った講演でこう語りました。
 「私の立場では、今年難しいとは口が裂けても言えない。私がここで考え込んだり、迷ったりすれば、すべてに影響する。あくまで進めていく」
 そのお気持ち、分かります。さぞかし苦しいのではと、お察しいたします―。
 今年に延期された東京五輪の開幕まで、23日であと半年と迫った。しかし、コロナ禍においての世の中の空気は、五輪ムードとは逆行しています。共同通信社が今月9~10日に行った全国電話世論調査では、東京五輪・パラリンピックを「今年開催するべき」と答えたのはわずか14・1%。逆に「中止するべき」は35・3%、「再延期するべき」は44・8%で、今年の開催を80%以上の人が難しいと考えていることになります。
 森会長は、感染が拡大している時期になぜあえてこのような調査をして発表するのかと疑問を呈したといいますが、その指摘は的外れだと思います。このような未曽有の事態にもかかわらず、五輪にかかわるトップの人たちが自分の立場からしか発言していないため、多くの人が今年の開催を信用できず、海外メディアからも開催を疑問視する報道が繰り返されるのです。
 東京五輪は昨年3月に当時の安倍晋三首相と国際オリンピック委員会(IOC)バッハ会長の間で延期を決めた時点でアスリートの手を離れ、政治に委ねられてしまいました。ただ、その政治が建前しか発信できないのでは、アスリートたちがあまりにも気の毒です。
 半年後の感染状況の予測がつかないことは、誰もが分かっています。五輪を推し進める思いを本気で伝えたいのなら国内外の現状を冷静に分析し、五輪開催時の医療従事者、財政、運営スタッフ、ボランティアなどへの負担をさまざまなケースを想定して割り出し、それらへの対応を丁寧に説明するしかありません。
 もちろん、そのためには五輪と正面から向き合い、判断が間違っていたら辞表を出す覚悟が必要です。それほどに腹をくくって世間をリードする思いがなければ、このような年に世界最大のスポーツの祭典を日本で開くことなど不可能です。
 日本の五輪代表選手さえ全体のまだ20%ほどしか決まってなく、3月25日には聖火リレーのスタートも予定されている現状で、時間はあまり残されていません。お互いの立場の溝を埋めて同じ視線に立とうと努めることをコミュニケーション力といいます。立場からしかものを言えない日本の五輪リーダーたちはコミュニケーション力を磨いて民意との間に横たわる溝を埋め、五輪開催可否の難問に立ち向かってほしい。そう願うのです。
 ◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長、同論説委員などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまでドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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