“データ野球先進国”で起きたこと…契約打ち切られたプロスカウト達の受難と失われつつある戦術・采配の妙
2021年1月22日 11時30分
【データが導くプロ野球新時代・大慈彌功さん特別寄稿[下]】
ビッグデータによる解析や分析の先駆者は、もちろん米国。1990年台から本格的に野球に導入され、それが日本にも伝わった。大リーグのデータ分析の現状を、米国のプロ野球事情に精通している大慈彌功さんに特別寄稿をしてもらった。
米国内には、大リーグ配下のマイナーも含め2019年には210チームがあった。他に独立リーグもある。球団によっては部長職も含め10~20人の「プロスカウト」がおり、その目で選手をくまなく視察していた。日本では主に編成担当と称され、各球団に1~4人ほどいる。
それが近年、レイズなどの成功例を踏まえデータ重視の戦略が主流になったことから、アストロズは18年をもってプロスカウトを廃止。代わりに4人でデータ解析に務めている。また、アストロズでGM補佐を務めていたマイク・エリアスさんが18年11月にオリオールズのGMに就任したとたん、プロスカウト部門を廃止。新たにデータ解析者6人を雇い入れた。
昨年10月末、フィリーズの球団社長はレイズの成功例を挙げ、コロナ禍での大幅な減収も相まって、ここぞとばかりに現場畑のベテランのプロスカウト5人と来季は契約をしないと発表した。追い打ちをかけたのがマイナー球団の削減。今年からメジャーを含め全体で150チームに減らされたことにより、昨年末には相当数の球団で多数のプロスカウトの契約が打ち切られた。
日本では、ほとんどの球団で先乗りスコアラーが対戦相手を事前に偵察する。メジャーではアドバンス・スカウトと呼ばれていたが、10年ほど前からその存在は皆無になっている。昨今では、対戦相手のデータ収集は動画で十分との認識が広がり、本拠地球場内のビデオルームでの作業に切り替わっている。出張費削減の意味合いもあり、予算から余剰金が発生すれば首脳陣の給与に反映されることもある。
日々の勝敗に生活が懸かっているのがプロ野球界。勝たなければ淘汰(とうた)される。データ最重視が成功している以上、主流となるのも自然の流れだろう。一方でデータに偏り過ぎ、好調な選手でも簡単に交代させるなど、ファン目線からすると戦術、采配の妙が失われているようにも思われる。
選手の調子は日々、異なる。試合そのものも生き物である。またファンとしては展開、采配を推理するのも楽しみの一つだろう。家族、友人、仕事仲間とのコミュニケーションツールにもなる。
大容量のデータを収集、分析し、提供している会社もある。ツインズ、パイレーツなど複数球団が提携しているデータ会社の幹部は、昨年2月のキャンプ期間中に来日し、NPB各球団への売り込みを行っていた。ただ、複数球団が同じデータを共有する格好なので、今後はイタチごっこになっていくだろう。
データをうまく活用し、なおかつ日々の選手の調子を把握でき、戦略性に富んだ采配ができる。そんな指揮官が、これからは勝ち残っていく気がする。(元大リーグスカウト)
【大慈彌功さん特別寄稿[中]】
【大慈彌功さん特別寄稿[中]】
【データが導くプロ野球新時代】
◆ダルビッシュらが助言仰ぐ“素人”…お股ニキ氏「結局有効な変化球と組み合わせ」
◆コンサルからDeNAへ…プロ野球の新たな潮流作る2人の“経歴”
◆球拾いで選手が望む未来像を把握…ソフトバンク“データ部門”の真髄
◆古い体質にどう挑むか…プロ野球DeNAの先進性に見出すヒント
◆ダルビッシュは“狙い球”と感じてもサイン通り投げた…今のMLBで超一流となる条件
関連キーワード
おすすめ情報