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成果求めず、個性認める 特別支援アートスクール

2021年1月21日 05時00分 (3月18日 11時44分更新)
一人一人の作品の良いところを話す河村裕子さん(右奥)=三重県桑名市内で

一人一人の作品の良いところを話す河村裕子さん(右奥)=三重県桑名市内で

  • 一人一人の作品の良いところを話す河村裕子さん(右奥)=三重県桑名市内で
  • それぞれが異なる創作に没頭するくじら図工室の特別クラス。中央が代表の青木絵実さん=名古屋市名東区で
 発達に特性のある子や、特別な支援を必要とする子どもでも通えるアートスクールが近年、東海地方に複数誕生し、人気が高まっている。一般的な習い事には適応しづらい子でも通いやすく、創作や表現活動にじっくりと取り組むことで、心の成長が見られる。こうした分野で専門的なスキルを持つ臨床美術士が主宰する教室もある。 (宮崎厚志)
 三重県桑名市の「ろこアト」は臨床美術士の河村裕子さん(53)が主宰する造形・絵画教室。月に一、二回の子ども向け臨床美術のクラスには、発達に特性のある子やダウン症の子が、そうでない子と交ざり合って創作に取り組む。
 昨年十二月下旬のプログラムは、墨と色紙で富士山を表現する活動。「カラフル! 色めっちゃ使ってるね」「紙をねじって立体的になったね。新しいアイデア!」。河村さんはうまい下手ではなく、個性を見つけて褒め続ける。明るい声に乗せられ、思い思いの作品を完成させた子どもたちも満足げだ。
 創作や表現活動で心を満たし、脳を活性化させる臨床美術。認知症対策として始まったが、発達支援にも応用されている。「発達に特性のある子は何かにつけて『ダメ、ダメ』と言われて育ち、自己肯定感が低いんです。だけど認めてもらうことを繰り返していくと、自由にありのまま表現できるようになります」
 河村さんは市内の放課後等デイサービスでも月に二回出張教室を開催。ただ、時間も回数も限られるため、保護者の要望に応えて一昨年に自宅アトリエでも開講した。現在は計三十五人ほどの子どもを見る。
 中学一年のダウン症の息子が二年ほど通っている桑名市の女性は、「息子に人を喜ばせたいという気持ちが芽生えてきた」と成長に目を細める。これまで英語や音楽などの習い事に挑戦してきたが、本人が周囲と比較してしまうため長続きしなかった。それだけに「障害のある子とない子が一緒にやれる習い事はなかなかない」と感謝する。
 彩色豊かな造形物であふれる名古屋市名東区の「くじら図工室」は週に一度、支援を必要とする子に寄り添う「特別クラス」を開講する。テーマもペースも自由に取り組めることが特長で、生徒七人に対して講師は二人と手厚い。
 代表の青木絵実さん(38)は「アートスクールの社会的な意義を考えれば、やるのは自然だった」と話す。中国・上海の日本人学校で図工の専科教員をしていたとき、発達に特性のある子どもが多くいた。駐在員の親も困っていたことから、「学校以外に面白い場をつくりたい」と、共同代表の小島伸康さん(38)と共に、二〇一〇年に現地にスクールを設立。一五年に名古屋に拠点を移しても、この理念を継続した。
 昨年十二月の特別クラス。母親に付き添われて通う小学五年の女児がいた。対人恐怖や、先の尖(とが)った物が苦手な先端恐怖から小学校に通っておらず、「ここが社会との唯一の接点」と母親。女児はその日、以前は怖がっていたのこぎりを自ら手にし、一心不乱に木工作品に取り組んだ。「安心できる場だと挑戦できるのかも」。母親にも青木さんにもうれしい驚きだった。
 「他の習い事とは違い、アートは成果を求めないところが良いのでは。一人一人の良さを引き出し、保護者には成長を理解してもらえるようにしています」と青木さん。現在新規の受講はキャンセル待ちで、高まるニーズに応えるべく教室の増設準備を進めている。

発達障害児、多様な機会足りず

 自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)など、さまざまな発達の特性を持つ子どもは、知能に問題がなくとも集団で行う一般的な習い事に適応できない場合が多い。そうした子どもたちの主な受け皿は、発達障害児の学童といわれる「放課後等デイサービス」だ。
 管轄する厚生労働省の統計によると、全国に1万5000以上の事業所があり、利用者数は約25万人。この4年間で約10万人も急増した。ただし教育よりも福祉に重点が置かれ、託児所のような意味合いも強い。発達に特性のある子どもの多様な学びや体験の機会が不足している可能性がある。

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