獣医師記者も感嘆『馬の神秘』 牛より効率良くない消化の仕組みだが『サプリ摂取』的観点から見ると…

2021年1月15日 06時00分

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草を食べる馬。その消化に仕組みは「アスリート家畜」として都合の良い側面も

草を食べる馬。その消化に仕組みは「アスリート家畜」として都合の良い側面も

  • 草を食べる馬。その消化に仕組みは「アスリート家畜」として都合の良い側面も
◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 先週、馬と牛の、消化管構造の違いを比較して紹介した。牛は小腸より前に発酵槽があり、食べた草の発酵産物は小腸を通過する。馬は小腸の後ろに発酵槽がある。発酵産物のうち、大腸壁から取り込める揮発性脂肪酸しか回収できない。発酵の結果生じた糖やアミノ酸のおそらくほとんどが、ボロとして捨てられていると考えられている。
 馬は家畜の中でも突出したアスリート。ノソノソした家畜の代表のように思われている牛より、消化吸収効率において劣っているというのは、意外かもしれない。しかし、実はこの仕組みの違いは「管理されるアスリート」としての馬にとっては、非常に都合が良い側面がある。
 発酵槽の中の微生物は、消化管の中を下ってきた草(主成分はセルロースなど)を“エサ"として取り込み、糖、アミノ酸、揮発性脂肪酸など、動物がそのままで取り込める栄養素を生み出す。
 では、草食動物がそのまま取り込める栄養素、すなわち糖やアミノ酸、脂肪を、直接口から与えられたらどうなるだろうか。発酵槽内の微生物も広い意味の動物だ。エネルギー代謝に使われる最終的な“燃料"は糖だし、“体"を構成するのはアミノ酸が多重結合したタンパク質や、脂肪だ。入ってきた糖は、微生物自身の代謝にも使われ、アミノ酸や脂肪も微生物自身も取り込んで使う。
 ところでタンパク質の構成要素となるアミノ酸は20種類ある。アスリートたる馬には、20種類それぞれのバランスを調整し、サプリメントとして与えたい時がある。馬に与えられたサプリメントは、発酵槽を通過せず小腸に届く。与えたアミノ酸は構成比率をそのままに小腸で吸収される。
 牛にサプリメントを与えると、発酵槽を通過する。微生物がこれを取り込んで発酵する過程でアミノ酸の構成比率が変わってしまう。こうなるとサプリメントは意味を成さない。
 労役家畜として馬を見いだした太古の人がすごいのか、労役家畜としてここまで適応している馬がすごいのか。神秘である。

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