主人公は伊東哲(金沢出身 記録画残す) 台湾のダム建設 児童書に

2021年1月14日 05時00分 (1月14日 10時21分更新)
児童書「1930 烏山頭」を手に、伊東哲への思いを語る伊東平隆さん=金沢市役所で

児童書「1930 烏山頭」を手に、伊東哲への思いを語る伊東平隆さん=金沢市役所で

  • 児童書「1930 烏山頭」を手に、伊東哲への思いを語る伊東平隆さん=金沢市役所で

親族「紆余曲折 面白い」偉人館に寄贈

 金沢市出身の八田与一技師が建設を指揮した台湾・台南市の烏山頭(うさんとう)ダムが昨年、完成九十年を迎えたことを記念し、台南市政府がダム建設の偉業を物語で伝える児童書「1930 烏山頭」を刊行した。主人公は八田技師ではなく、建設工事の記録画を残した同郷の画家伊東哲(さとし)。市政府から児童書を贈られた伊東家現当主で、哲の兄の孫である平隆(ひらたか)さん(78)=金沢市=は「まさか伊東哲が主人公なんて」と驚く。(小佐野慧太)
 物語は事実を基に脚色した内容で、恋愛スキャンダルで世間を騒がせた歌人柳原白蓮(びゃくれん)をモデルにした洋画が売名行為と非難され、伊東が画壇での挫折を経験する場面から始まる。母のいとこに当たる八田から台湾に来るよう求められ、工事の記録画を担当。うまく描くことができずに苦悩するが、突如現れた女神の助けを借りて、大作「嘉南大圳(かなんたいしゅう)工事模様」を仕上げるまでを紹介している。
 記録画はダム建設だけでなく、作業員の家族たちの生活ぶりや台湾の植生なども細やかに描いた縦横七十センチほどの壁掛け画(タペストリー)。伊東家で長く保管されていたが、二〇一二年に平隆さんが伊東の手紙と照合し、烏山頭ダムの工事風景を題材にしていることが分かった。
 平隆さんは一八年に作家らの訪問を受け、今回の児童書のための取材に協力した。ただ、伊東が物語の主人公だと知ったのは刊行後のこと。「八田技師本人はいちずで立派な人物だから、物語にしにくかったのかも」と推測する平隆さんは「その点、伊東哲の紆余(うよ)曲折ある人生は子どもにも面白く読んでもらえそう」と話す。
 平隆さんは、二十冊贈られた児童書の一部を金沢ふるさと偉人館(金沢市下本多町)に寄贈し、広く市民に見てもらえるようにする。伊東は記録画を「嘉南大圳の工事そのものにも劣らない気持ちで描いた」という内容の手紙を家族に残していたといい、平隆さんは児童書を通じて「八田技師だけでなく、伊東哲の努力が広く伝わるといい」と期待する。
 児童書は台湾全土の書店で購入でき、多くの図書館でも借りられるという。

【メモ】嘉南大圳=日本統治時代の台湾南西部に建設された烏山頭ダムと、ダムの水を平野に行き渡らせるために巡らせた1万6000キロの水路など利水設備全体の総称。1920(大正9)年9月に工事が始まり、10年の歳月をへて完成した。洪水と干ばつに苦しんできた嘉南平原を、15万ヘクタールの穀倉地帯に変えた。


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