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ダルビッシュらが助言仰ぐ“素人”…お股ニキ氏「結局有効な変化球と組み合わせ」【データが導くプロ野球新時代】

2021年1月13日 12時00分

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ダルビッシュ(AP)

ダルビッシュ(AP)

 人工知能(AI)や高性能弾道測定器などの出現で、プロ野球界のデータ分析が、おそろしいほどの速さで進化している。野球そのもののあり方だけでなく、野球の素人がSNSを駆使してプロを指導したり、プロ野球の未経験者が守備シフトや配球を考えたりする時代にもなった。データが変える日本のプロ野球を伝える。
 ◇ ◇ ◇
 昨年12月初旬、東京都内の待ち合わせ場所に現れた男性はソフトバンクのパーカを着ていた。「ファンになっちゃったみたいな感じですね。ソフトバンクの投手陣が一番、僕に積極的なんですよ」。差し出された名刺にはこうあった。
 「特別アドバイザー お股ニキ」。ソフトバンクの千賀をはじめ、中日でも清水や山本らが愛読する「セイバーメトリクスの落とし穴」の著者は今や、東京都内に知人が開設した施設やオンラインのサロンでプロ野球選手の自主トレを手掛ける「指導者」でもある。
 ツイッターで知り合った大リーグ・パドレスのダルビッシュとの交流でも知られるが、その野球経験は中学の部活まで。「ストライクを投げられる子があまりいないレベルだった」。そんな素人の彼にプロが助言を仰ぐ。そのきっかけはツイッターだった。メジャーや国内のプロ野球を徹底的に観戦し、その意見をツイートしているうちに選手側が興味を持ち始めたのだ。
 ツイッターで連絡を取り合った経験がある山本はこう言う。
 「お股さんは、ダルビッシュさんだったり日本を代表する投手がどうすれば打者を抑えられるかを、具体例を挙げて指摘しています。実際に映像を見ると、その通りに抑えているんです。特に、配球には説得力があります。今の持ち球でどういう球を投げればいいか。自分がマウンド上で感じたことを言語化、文字化していて、わかりやすいんです」
 お股ニキは言う。
 「変化球には、一番打ち取りやすい速度や変化量があるんです。それはデータが実証しています。僕は自分じゃ投げられないけど」
 その言葉に山本もうなずく。
 「お股さんのアドバイスで変化球の概念が変わりました。今までは大きく曲げることがいいスライダーだと思っていたけど、それではプロでは通用しない。いかにストレートに見せるかが大事です。だからスピードが速く、曲がりが小さくて鋭いスラッターを覚えました。今季は持ち球をさらに磨いていきたい」
 カットボールは大きめに曲げ、直球の90%くらいの球速にすると空振りが取れるというデータを基に、千賀には145キロではなく141キロくらいにするように助言。逆に、縦のスライダーは135キロくらいに速めるように勧めた。
 果たして、2020年10月28日のロッテ戦(ペイペイドーム)。千賀は6回に中村奨を137キロのスライダーで空振り三振に取った。さらにその前年の9月、ノーヒットノーランを達成したロッテ戦でもこの変化球を投げている。
 「僕はずっと、あの球を投げたらいいのにと思っていた。あのスライダーと141キロくらいのカットボールとフォーク、たまに130キロくらいのスライダーとカーブの間の球種でいい。結局、有効な変化球って決まっていて、程よく空振りが取れて、当たっても凡打になる一番いいラインがある。それを組み合わせようねという話なんです」
 昨季、サイ・ヤング賞の投票で2位になったダルビッシュの活躍を語る上でも根拠がある。「真っすぐはメジャーで一番良かった。シュートする幅が10センチくらい増えて、ホップする幅が6、7センチ増えた」
 いわば、シュート回転して浮き上がるように見える速球。もちろん、物理的に浮き上がる速球というものは存在しない。だが、近年はボールの回転の研究により、自然落下よりも落ちる幅が少ない速球が存在することがわかってきた。これを野球のトラッキングデータではホップ率と呼ぶ。この数値が高いほど、打者はボールが浮き上がると錯覚する。お股ニキは以前から「もう少しこうするだけで変わるから」とデータを示し、本人に伝えていたという。
 むろん伝えてできる選手ばかりではない。まずは理解し、イメージしたことを正確に表現できることが前提。だから助言の対象は、プロ野球でもトップクラスの選手が多い。彼らに極端なことは言わない。「今持っているものの微調整が中心」とわきまえる。
 トラックマンをはじめとする高性能弾道測定器など、近年のデータの進化は目を見張るものがある。この進化と分析で、野球そのものが大きく変わろうとしている。お股ニキのように、野球経験がほとんどないにもかかわらずデータを駆使し、トップクラスのプロ野球選手を指導するアマチュアも出てきた。
 この傾向はプロ野球の組織にも数年前から出現している。ソフトバンク、DeNA、楽天などが、こぞってプロ野球の経験がないデータアナリストを職員として採用している。メジャーリーグに続き、日本のプロ野球も完全にデータ新時代に入った。(特別取材班)
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