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追悼トミー・ラソーダさん 今でも忘れない衝撃の初遭遇…親日派はとっつきにくいオッサンだった【竹下陽二コラム】

2021年1月9日 10時51分

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野茂英雄にゲキをとばすラソーダ監督。左はピアザ=1996年

野茂英雄にゲキをとばすラソーダ監督。左はピアザ=1996年

 ドジャースの監督を長年務めた名将、トミー・ラソーダさんが亡くなった。93歳だった。ラソーダさんで思い出すのは、1995年2月末、米フロリダ・ベロビーチキャンプである。私はメジャーに挑戦する野茂英雄を追いかけて、その地にいた。
 メジャー・リーグは、前年からのストライキの真っ最中でマイナーリーガーたちが汗を流していた。どこか閑散としたベロビーチで私はワクワクドキドキであった。まだ見ぬメジャーで野茂がどれだけやれるのか。あるいは、やれないのか。正直、私は懐疑派であった。
 と、向こうから伝説の名将、ラソーダ監督がやってきた。親日派として知られる人。はるばる日本から野茂の取材でやってきた日本人記者を大歓迎するに違いない。ワクワクドキドキの私は名刺を渡し、自己紹介した。「フロム・ジャパーン? ワオー、よく来たねえ。よーこそ、ベロビーチへ。今夜、スシでも食いに行くかい?」などと言ってくれるかと勝手に妄想していたら「あー、そうかい。ノモならそのうちベロビーチに来るよ」と無愛想につぶやき、名刺を後ろポケットに入れて立ち去った。
 ど、どこが、親日派やねん! と、思わず、関西弁で突っ込みを入れたくなった。衝撃の出会いだった。肌寒いフロリダの風が荒涼とした心の中をピューと吹き抜けた。メジャーの洗礼を浴びた思いだった。それが、トラウマとなった。
 洗礼と言えば、ドジャース担当記者から面白い話を聞いた。ある日、トイレで用を足すラソーダ監督に外から記者がチーム事情などの質問を投げかけた。その時のやりとりが即席インタビューとして紙面に掲載されたこともあったという。あからさまに、描写はされてなかったが、シテュエーション的には容易に想像される書き方だったそうだ。
 いやはや、なんと言うか。プライベート空間にいながらも、質問に答えるラソーダさんの懐の深さ(?)。それを記事にしてしまうドジャース担当の頭の柔らかさ(?)。型にはまりがちな私は目からウロコの思いだった。
 また、ある日、上機嫌のラソーダ監督が「日本人はゲタで歩くだろ? あれで、下半身が強化されるんじゃないか?」と独自の理論を日本マスコミ相手にリップサービスしてくれたことがあった。さすがに親日派の分析。ノーテンキな私はひたすら感心した。
 と、あるドジャース担当記者が近づいてきて「今のトミー(ラソーダのこと)の発言はどう思う? ゲタで歩くから下半身が強いなんて人種差別的じゃないのか? 日本人的にはどうなんだ? メジャーで人種差別的な発言をするとクビが飛ぶからなあ」と耳元でささやき、難しい顔をして立ち去った。私はその発言が差別的とはどうしても思えなかったが、監督と記者はなれ合いじゃない、常に緊張関係にあることもその時知った。
 95年5月1日。日米約200人の報道陣が詰め掛けた、サンフランシコのキャンドルスティックパークでの野茂のデビュー戦では、ラソーダ親分が本領を発揮した。メジャーは日本と違って、報道陣のクラブハウスへの出入りが自由で野茂のロッカー周辺は大混雑。堪忍袋の緒が切れた野茂が「これなら、放送できないでしょ?」とばかりにパンツをブルリと下ろし、おしりをカメラに向けた。これは、ムーニングと呼ばれるアメリカ流の抗議行動だった。
 それでも、収まらない騒動を見かねて、ラソーダ監督が白髪を振り乱して「ゲット・アウト! 報道陣は、出て行け! ノモを一人にさせてやれ! ゲット・アウトオーッ!」と怒声を響かせて、報道陣を追い払った。ものすごい迫力だった。野茂の入団当初から「マイ・サン(オレの息子)」と言い続けて、サポートしてきて、野茂の恩人とも言われるが、それは、間違いない。
 決して、完全無欠の聖人君子とか人格者とかじゃなく、むしろ、一筋縄ではいかない、とっつきにくオッサンであった。鋭い眼光。漂う、独特のオーラ。タヌキオヤジと呼んでもいい。勝負の世界で生きる人なら、むしろ、そうあるべきだ。お人よしでは、メジャーの監督は務まらない。
 かつてのドジャース担当で同じイタリア系アメリカ人のラリー・ロッカさんに連絡をとると「トミー以上に野球を愛した人はいない。ひょっとしたら、トミーと同じぐらい野球を愛した人はいるかもしれないけど、あれ以上に愛した人はいない」とコメントしてくれた。粋な追悼コメントだ。
 このメジャー取材も一つのきっかけになって、「WHO ARE YOU?」なる外国人インタビューコラムを紙面で書くようになったが、ラソーダと初遭遇とした当時の私は人間的にも技量的にもそこまでの引き出しはなかった。ファーストコンタクトでつれなくされ、それで、腰が引けてしまい、最後まで懐に飛び込むことができなかったことが悔やまれる。迷ったら、GO、ひるまず、GO。それが、ラソーダさんが教えてくれた、一つの教訓かもしれない。
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