リニア工事 法廷に問う(5) 牧之原の茶農家・柴本俊史さん

2020年12月20日 05時00分 (12月22日 17時40分更新)
住民の陳情で整備された農業用水から水をくむ柴本俊史さん=牧之原市で

住民の陳情で整備された農業用水から水をくむ柴本俊史さん=牧之原市で

  • 住民の陳情で整備された農業用水から水をくむ柴本俊史さん=牧之原市で
 原告団に参加した利水者十三人の中で最年少の柴本俊史(としふみ)さん(34)=牧之原市=は、大井川の流域五市(島田、掛川、牧之原、菊川、御前崎)にまたがる県内一の茶産地、牧之原台地で茶栽培に励む。
 「牧之原台地の水は先代達が勝ち取った水。減ったら、茶の値段を上げるしかない」と柴本さんは言う。
 茶園としての牧之原台地の始まりは明治初期。農家に転じた幕臣が、水不足で見向きもされなかった土地に比較的少ない水でも育つ茶を植えた。ただ農業用水がなく、茶農家は数キロ以上離れた水源までトラクターで何度も行き来した。
 不安定な茶栽培を強いられる中、地域の人たちが「牧之原に水を」と陳情を繰り返し、悲願の農業用水が整備されたのは一九七八年だった。
 柴本さんも牧之原で代々続く茶農家。当初は家業を継ぐつもりはなかったが、「まずはお茶を知ってから」と進学した農業高校で、お茶の奥深さに触れた。茶葉や温度、入れ方で味が変わり、飲んだ人に「おいしい」と言ってもらえることに魅力を感じた。茶の産地の宮崎県で修業を積み、十年前に初めて牧之原に自分の畑を持ち、収穫した。
 だが、福島第一原発事故が起き、影響が一時、遠く離れた牧之原の茶畑にも及んだ。雨雲が運んだ放射性物質を茶葉が吸水。検出された放射性物質は国の基準を上回った。「自信を持って育てたのに、自信を持って売ることができなかった」
 全て廃棄。前年実績がなく、被害額の計算は難しいと東京電力からの補償はなかった。
 だから、リニア工事は大井川の水量だけなく、水質への影響も気にかかる。訴訟に参加しようと思ったのは「不安が現実になってからじゃ、遅い」という原発事故の経験から。結婚した今年八月、挙式も控える中で決心した。
 「主張は通らないかもしれない。でも、将来影響が出て『おやじっちは何をしてたんだ』って子どもに言われたとき、『何もしてない』とは言いたくないから」 (牧野新)

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