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92歳鬼師 小説執筆 「瓦産業の歴史残したい」 

2020年12月8日 05時00分 (12月8日 09時39分更新)
「瓦屋権蔵物語」を執筆する西郡さん=あわら市の「西郡鬼瓦工房」で

「瓦屋権蔵物語」を執筆する西郡さん=あわら市の「西郡鬼瓦工房」で

明治時代舞台 あわらの西郡さん 

 旧金津町(現あわら市)は、江戸時代から続く県内の主要な瓦産地として二百年余りにわたり栄えた。そこで生まれ育ち、十七歳から瓦職人として働く西郡(にしごおり)正義さん(92)=同市春宮一=は、歴史の生き証人だ。先輩から教えられた歴史を後世に語り継ぐため、現在、明治期の瓦職人の一生を描いた小説を、同人誌に執筆している。西郡さんは「いつか本にして、この歴史を残したい」と話す。 (藤共生)
 視力の低下とともに、わら半紙に書く字は次第に大きくなってきた。何度も書き直し、構成に悩んで一晩寝ない日もある。それでも情熱は衰えない。「瓦を一枚一枚手作りしていた時代を思えば、それが全く知られなくなるのは先人たちに申し訳ない。古いことを知らないと、新しいことは生まれない」
 和風建築の建物で、棟の両端に配置する装飾性に優れた瓦は「鬼瓦」と呼ばれ、それを製作する職人は「鬼師」と称される。西郡さんは全国でも数十人しかいないといわれる鬼師の一人だ。
 江戸時代に始まった旧金津町一帯での瓦作り。昭和初期には嶺北地方で生産される瓦の三割以上を占めていた。しかし一九九〇年代に瓦用の土が掘り尽くされ、瓦工場は次第に姿を消した。
 西郡さんも四年前に鬼瓦製作を縮小し、JR芦原温泉駅前に工房を移転させた。そのころから地元の瓦作りや自身の体験を題材にした文章を執筆し始め、昨年からは小説を書いている。モデルは自身の伯父。題して「瓦屋権蔵(かわらやごんぞう)物語」。あらすじは次の通りだ。
 時代は明治。滝村から瓦に最適な土が産出することを村の庄屋が知る。村人の中から十三歳の権蔵を見いだし、隣村の瓦職場に食事係として住み込ませた。権蔵は苦労を重ねながらも次第に立派な職人へと成長し、瓦作りの製造工程に技術革新を起こす−。
 かつて西郡さんが体験したこと、古参の先輩職人から聞いた話などがベースとなっている。まだ機械や自動車はなかった時代。手工業時代の瓦作りの苦労が描かれる。重さ四十キロにもなる瓦十枚を担ぎ、竹田川河畔まで四キロの道のりを一日四往復して運んでいた。
 西郡さんは作品に込めたメッセージを「人間の命には限りがある。与えられたことを一生懸命に。それしかない」と語る。
 作品は県内の同人誌「ふくい往来」に掲載されている。現在、十号と十一号に上と中を掲載済み。来年三月上旬に発売する十二号に下を掲載する予定だ。
 「ふくい往来」編集世話人の栗波昭文さんは「豊富な語彙(ごい)力、抜きんでた専門知識、豊かな想像力。ストーリーも正統で厚みがある。高齢であれだけの文章が書けるのは大したもの」と絶賛する。「物語の底辺には人情味があり、ただの記録ではなく読ませる作品」と高く評価した。
 「ふくい往来」は県内書店や図書館に置かれている。税込み三百円。

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