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<備える> 特別編 防災人材交流シンポジウム「つなぎ舎」

2020年12月7日 05時00分 (12月7日 05時01分更新)
 東日本大震災の経験と教訓を、南海トラフ地震の備えに生かす−。11月15日に名古屋市公会堂で開かれた防災人材交流シンポジウム「つなぎ舎〜3.11を未来へつなぐ〜」(実行委員会など主催、中日新聞社など共催)。東北の語り部たちが被災の様子を語るとともに備えの不足などの反省を報告した。参加者たちは、当時を知る人の「言葉の強さ」を実感しつつ、震災伝承の大切さと「次の被災地」と想定される東海地方の減災に向け、決意を新たにした。当日の様子を紹介する。 (梅田歳晴、榊原智康)

宮城 志野ほのかさん(東北福祉大4年)

志野ほのかさん

 おじいさんはきっと逃げているだろうと思っていました。地震発生後、近所の人が確認しにいくと、地震の揺れで散乱したものの片付けをしていたようです。「そろそろ帰ってくるから」と私を待って、避難しなかったようです。
 しびれを切らした近所の人が「先に避難しているからね」と声をかけた時には、長靴を履いて避難バッグを持って、私がいつも学校から帰ってくる方向を見ながら「帰ってきたらすぐに避難する」と言っていたそうです。それがおじいさんが確認された最後の姿でした。
 両親が共働きだったため、日中はおじいさんと過ごすことが多く、近所の人から言われるほどのおじいさん子でした。頑固でたばこ好きだったおじいさんといろいろな話をしたり、帰ると必ず最初に「おかえり」の声が聞こえるのが当たり前でした。
 おじいさんと会うことができたのは二週間後。遺体安置所で。ひつぎの中で苦しそうに口をあけて、何か言っているようでした。
 なぜ私を待っていたのだろう。なんで逃げてくれなかったのだろう。たくさんの後悔が消えません。
 皆さんに第一に伝えたいことは、自分の命は自分で守る、ということ。津波から命を守るためには遠く、高い所に一刻も早く逃げるしかありません。家で家族を待ったり、助けに家に戻ったりはしないで、信じて逃げること。家族で事前に話し合うことが大切だと思います。

 しの・ほのか 22歳。震災時は宮城県東松島市野蒜小6年。体育館避難後、階段を上って津波から助かったが自宅で祖父が亡くなった。2015年に語り部活動を始めた。

岩手 神谷未生さん(おらが大槌夢広場代表理事)

神谷未生さん

 岩手県大槌町に入ったのは二〇一一年四月。「カオス感」が強いとの印象を受けました。被災地で唯一町長が流された場所です。幹部職員の七割が流されています。この大惨事を引き起こしたのは、庁舎の前に対策本部を立ち上げてしまったからです。
 大槌町はふらっと立ち寄れる(地理的な意味で)場所ではないので、来られるのはコアな(熱心な)方が多い。その方たちと話していて気づいたことは、皆さん評論家になりがちなんです。「何でそうなったんだ」との視点は必要なこと。ただ自分ごとにはなっていないと感じました。
 誰一人として、あの時に死のうと思ってなかったはず。今、この会場の中で自分一人だけ立ち上がり、逃げ出す行動を取るのが「逃げる」ということです。あの時、自分だったら逃げられますか、というのを常に問いとして持ってほしいです。
 みんなまずいなと思っていました。「同調バイアス」といって集団の中にいると、周りに人がいるから大丈夫だろうと思い込んでしまう。それをいかに壊す一人になれるかが皆さんに問われています。
 防災減災が専門的に研究されるようになってきました。その流れは良いことですが、専門性が高まれば「特別な人たちがやるもの」になる。それはすごく危ない。一人で行動を起こすために自分がどういう勇気を持たなきゃいけないのか。日常的に非日常に触れるきっかけづくりが大切だと思います。

 かみたに・みお 名古屋市出身、岩手県大槌町在住。45歳。震災で国際NGO職員として緊急支援に従事。40人が犠牲になった町役場庁舎の教訓を学ぶプログラムを開発した。

福島 青木淑子さん(富岡町3・11を語る会代表)

青木淑子さん

 福島県富岡町は人口約一万六千人の町でした。高齢化率は21・6%。若い人たちがたくさん住んでいる町でした。そこに地震、津波が襲いました。電気、水道が止まりました。携帯もつながりません、雪も降ってきました。その中で、町民は車の中で一夜を明かす人がいましたが、翌朝になって自宅に帰り、その後、富岡町民は防災無線を通じ、逃げるように言われました。
 多くの人が車で逃げようとしました。車の中にいる一人だったら何を考えるか。「すぐ帰れる」。着の身着のまま、車に乗りました。田んぼや畑、牛、花、ペット、友達、家族。大事なものを全部置いて。それから六年間、帰ることができませんでした。十年たつ今も帰れない人もいます。
 これが複合災害の現実なのですね。「安全安心」の名の下に疑いもしなかったことを今、反省しているし、二度と繰り返してはいけないと思います。
 今は町民は千五百人くらい。二年前に小中学校が開校しました。子どもたちが帰ってきました。半分は元からの町民。全国各地に避難し、そのまま避難先で暮らす人がいます。帰ってきてよいと言われていても、帰れないと考える町民たち。町民の断絶があります。
 コミュニティーがばらばらに壊れた町。つくるのは誰だろう。それは人だと思います。町を壊したのが人ならば、つくり直すのも人でなければいけない。原発事故の一番の被害は、人の人生を根こそぎ変えていったことです。

 あおき・よしこ 東京都出身、福島県富岡町在住。72歳。2008年まで福島県内の県立高校で国語科教員。富岡町を中心に被災者を支援し、15年に富岡町3・11を語る会を設立した。

武田真一さん(3・11メモリアルネットワーク共同代表)

武田真一さん

 3・11メモリアルネットワークは三年前に発足した草の根の連携組織です。震災を伝え継ぐ活動に関わる個人や団体がつながり、震災の伝承を持続的でしっかりしたものにしていこうと集まりました。
 活動目的は、災害で命が失われない社会の実現、被災者と被災地域の苦難を軽減し、再生に向かうことができる社会の実現への貢献です。震災から間もなく十年。被災地の様子も大きく変わりました。地元でも、あの出来事を思い起こし共有する機会は少なくなっています。十年の節目に向け、この一年間を活動の正念場と位置づけていましたが、コロナ禍によって大きな影響を受けています。
 十年の節目が過ぎれば、さらに発信の機会が減ると見込まれています。そんな中でも活動を安定して継続していくためには、全国の皆さんとつながりを強めて、震災伝承の輪を広げていく必要があります。

 たけだ・しんいち 61歳。宮城教育大311いのちを守る教育研修機構特任教授。東日本大震災時は河北新報社(仙台市)で報道部長を務めていた。

「過去に学べ」「若者同士交流を」 議論白熱

災害の教訓をどう伝えるかなどについて意見を交わしたパネル討論=名古屋市昭和区の市公会堂で

 パネル討論には、被災地の語り部団体代表者らに加え、名古屋大防災サークル「轍(わだち)」前代表の藤岡祐太さん(同大3年)や「美浜・南知多防災の会」の原真理さん、名大減災連携研究センター長の福和伸夫教授が参加。NPO法人レスキューストックヤード(名古屋市)の栗田暢之代表理事がコーディネーターを務め、災害の教訓をどう伝承していくかや防災人材の交流の在り方などについて意見を交わした。
 藤岡さんは、志野ほのかさんの被災体験について「同年代として感じるところが非常に多かった」と強調。「今後は自分たちが主体的に動いて、同世代の横のつながりを強化していきたい」と、被災地と東海地方の若者同士で交流を深めていく考えを示した。
 原さんは、南海トラフ地震で津波による浸水が想定されている愛知県美浜町などで防災活動に取り組んでいる。県内では近年、地震で大きな被害が出ていないことに触れ、「防災減災の意識が希薄になってきたような気がする。高齢者の中には津波が来たら、死ぬからもういいんだと、あきらめモードになっている人もいる」と明かした。
 これに対し3.11メモリアルネットワーク共同代表の武田真一さんは、津波で亡くなった場合、遺体の損傷が激しいと説明。「『生の尊厳』も守らなければいけないが、『死の尊厳』を守るためにも、きちんと逃げようとの考えを共有してほしい。被災地では『この地区で何人の犠牲を出してしまった』との後悔をずっと引きずっている。そういう後悔を(この地方の人たちに)してほしくない」と訴えた。
 福和教授は、過去の昭和東南海地震(1944年)や三河地震(45年)、伊勢湾台風(59年)といった災害を挙げ、「まずわれわれが住んでいる場所で起きた災害から学び取ることが必要」と言及。加えて「阪神大震災や東日本大震災などからも学び、現在の私たちの社会を点検した上で、何をやらなくてはいけないかを考えていきたい」と結び、参加者に備えを呼び掛けた。

愛知の災害史跡 パネルで伝える

会場に展示された段ボールベッド=名古屋市昭和区の市公会堂で

 会場には、感染症対策のついたてが付いた段ボールベッドのほか、過去の災害を今に伝える愛知県内の史跡のパネルなどが展示された。東日本大震災の津波の映像が流され、伊勢湾台風の被害状況を掲載した中部日本新聞(現・中日新聞)の紙面のパネルも並んだ。
 つなぎ舎の当日の様子は動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開している=完全版 防災人材交流シンポジウム【つなぎ舎】~3・11を未来へつなぐ~。主催団体の一つ「3・11メモリアルネットワーク」は、伝承活動に協力する会員を募っている。問い合わせは同ネットワーク=電090(9407)3125=へ。

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