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問われる五輪延期経費3000億円の価値 大切なのは開催する意義

2020年12月2日 12時35分

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来夏の五輪開催を待つ国立競技場

来夏の五輪開催を待つ国立競技場

ヘンリー鈴木のスポーツ方丈記


 五輪の延期に3000億円を費やす価値はあるのか。いま、日本に住む私たちはこの問題に直面しています。
 新型コロナウイルスの影響で東京五輪・パラリンピックが来夏に延期されたことに伴う追加経費の合計が3000億円に上ることを、複数のメディアが報じました。大会組織委員会の試算によるもので、うち2000億円は会場の再確保に関わる費用や、設備のレンタルやリース、保管の費用や人件費など。このほかに国の負担を見込むコロナ対策費として1000億円程度が、医療体制の整備や感染防止の設備などに別途必要となる見通しといいます。
 この追加経費が高いか安いかは、現段階で問うつもりはありません。延期前の昨年12月時点での大会開催経費は1兆3500億円。その約85%にあたる1兆1500億円は既に国立競技場などの会場建設や、関連業者への支払いなどに費やしたといいます。大会中止となればこれらの投資の多くは無駄となり、チケットや放映料などの収入も消え去ります。
 さらに観光客らをあてにしていたホテルや、バス、タクシーなどの運輸、運送業、大会グッズ関連業者なども大きな痛手を被ります。コロナ禍で困窮する社会に上塗りする経済の損失が発生するわけです。これらを考え合わせれば、単純に損得勘定を計算できるものではありません。
 いま考えるべきなのは「日本はなぜ、オリンピックを来年開催しなければならないのか」という、コロナ禍で開催することの意義です。
 「東京、そして日本が社会の連帯によって新型コロナウイルスに打ち勝った証しをスポーツを通じて示し、今後に困難が再び襲った時も東京モデルをもとに国際イベントが開催できることをレガシー(遺産)とする」
 開催に前のめりな菅義偉首相、小池百合子都知事らの主張をまとめれば、このようになるでしょうか。しかし「社会」どころか国と東京都の連帯さえが何度もふらつき、国民や都民は困惑。また、ワクチンが今後完成したとしても、海外から多くの人が集結する五輪で感染リスクゼロはあり得ないことは明白です。「コロナに打ち勝った証し」とは、おごり以外の何ものでもありません。五輪誘致時に当時の安倍首相が「福島の状況はアンダーコントロール(制御されている)」とスピーチしたことをほうふつさせます。
 来夏の大会は五輪憲章にある「4年ごとの開催」を覆し、近代五輪史上初の延期を押し通したものです。また、東京は1940年に日中戦争の影響で開催権を返上したことがあります。今回中止となれば3大会のうち64年の1回しか実現できなかったことになり、開催を推す人たちからは「国としてのメンツにかかわる」という声も出ています。
 大切なのはおごりやメンツではなく、現実の直視です。政治主導ではなく、五輪に人生をかけるアスリートたちとも医療現場の実態などを含めて話し合いを重ねて「なぜ、オリンピックを来年開催しなければならないのか」を突き詰めていくべきです。その答えがないままに税金を吸い取る3000億円の価値を認める人は、ほとんどいないでしょう。
◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまでドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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