中日春秋

2020年11月28日 05時00分 (11月28日 05時02分更新)
 誘拐犯が分かった。だが、仲代達矢さんの捜査官は部下に泳がせよと命じる。「最高十五年の刑罰にしかならん」。それでは被害者側の傷に見合わない、別の犯罪の証拠を固めてからだと。身代金を狙う誘拐事件をえがいた黒沢明監督の名作『天国と地獄』(一九六三年公開)の一場面だ
▼誘拐を強く憎む黒沢の法の緩さへの不満が筋立てに表れていたともいう。映画の模倣犯が現れ、黒沢は衝撃を受ける一方、後に厳罰化は実現している。自身の作品がきっかけになったのだろうとも語っている。“成功”はまずなく、刑は重い。「割の合わない犯罪」の認識は強くなり、件数は減っていった
▼どこか古い響きがあるようにも感じる「身代金」を求める犯罪が現代で流行中という。企業などにサイバー攻撃を仕かけて、盗んだ個人情報、機密情報などを「人質」のように使う犯罪だ
▼ゲーム大手カプコンが大金を要求されたと報じられた。米情報セキュリティー会社クラウドストライクの調査によると、日本の大手企業などの約半数が攻撃を受けて、うち三割が支払いに応じた。平均の額は実に一億円以上という
▼犯人は外国にいて、難問の「身代金」受け渡しに、ネット上の仮想通貨も使うそうだ。狙われるのは命でないが、防ぐのは難しい、現代の脅威だ▼ネット社会の「地獄」の一面か。割の合わない犯罪にしないといけない。

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