中日春秋

2020年11月27日 05時00分 (11月27日 05時02分更新)
 距離52メートル、44歩、経過したのは10・6秒という。一九八六年のサッカーワールドカップ準々決勝でアルゼンチンのディエゴ・マラドーナさんが決めた「五人抜きゴール」を数字で表せば、そうなるらしい。欧州紙にあった
▼わずかな時間の出来事であるが、そこに「神の子」と言われるゆえんの技とひらめきが詰まっている。日本をはじめ、世界の若者に、追い掛けたくなる大きな夢を披露した十秒余りでもあっただろう
▼相手のイングランドはフォークランド紛争の敵でもあった。実況中継での解説者の「すみません。泣きそうです」の声は母国で語り継がれているそうだ。イングランドの名選手リネカーさんは敗北後「初めて敵のゴールをたたえたくなった」と脱帽したという。味わいのある話がプレーのまわりにちりばめられている
▼数多く伝説と夢を感じさせる在りし日の姿を残して、マラドーナさんが旅立った。六十歳での死は早すぎる
▼薬物問題やマフィアとのつながり、ドーピングなど後年の不祥事が山のようにあっても、母国をはじめ温かい言葉ばかり出てくるのは、時に常識に反した一面も、愛情の対象だったからか
▼「ディエゴがあした天国でプレーするのなら、それを見に行くだろう」。かつて、アルゼンチンでそんな歌がヒットしたそうだ。天国での神の子の技とひらめきの場面を思い描いた人もいるだろう。

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