「何降りとんねん」山井と藤井の言葉が大野雄の完投魂に火を付けた

2020年11月25日 10時33分

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10月22日のDeNA戦、8回表2死二、三塁、代打楠本を空振り三振に仕留め、雄たけびを上げる大野雄=ナゴヤドームで

10月22日のDeNA戦、8回表2死二、三塁、代打楠本を空振り三振に仕留め、雄たけびを上げる大野雄=ナゴヤドームで

  • 10月22日のDeNA戦、8回表2死二、三塁、代打楠本を空振り三振に仕留め、雄たけびを上げる大野雄=ナゴヤドームで

時代に逆行した左腕(上)


 大野雄が球団では16年ぶりとなる沢村賞を獲得した。投手の分業制が確立した現代野球。巨人・菅野との選考争いを制した鍵は「10完投」の基準をクリアしたことにあった。果たしてこの快挙はどう成し遂げられたのか。本人の証言とデータから「時代に逆行した左腕」と題して3回にわたり連載する。
   ◇   ◇
 10月22日のDeNA戦(ナゴヤドーム)。8回2死二、三塁で空振り三振を奪った大野雄はガッツポーズを繰り出しながら、頭の中でつぶやいた。「よしっ。あと1イニングや」。この時点で111球。それでも誰の救援も仰ぐつもりはなかった。
 「中継ぎが連投している中で一人で投げ切れたら価値があると思ってマウンドに上がった」。1回の1点を守り抜き、今季10度目の完投を6度目の完封で飾った左腕。そこには首脳陣に判断を委ねた3カ月前のひ弱な姿はなかった。
 7月24日の阪神戦(同)。5回2死二、三塁を空振り三振で切り抜け、左拳を握った。この時点で103球。直後にベンチで阿波野投手コーチに問われた。「どうする?」。疲労は確かにあった。「任せます」。降板を申し出たに等しかった。
 「疲労がどれだけあっても『行け』と言われれば行けます。『もう1イニング抑えてこい』なら火が付くんです」。そう漏らしたのは試合後だった。後を託した救援陣が崩れて逆転負け。開幕から6試合未勝利で不完全燃焼に陥っていた。
 転機は数日後のナゴヤ球場。残留組練習で5イニングで降板したいきさつを説明すると、山井と藤井にこう言われた。「何降りとんねん。お前は何球かけても最後まで投げなあかんのちゃうんか」。目が覚めた。「そやな」。火が付いた。
 燃える準備は整っていた。「3試合目の東京ドームは真っすぐで押せた。負けたけど形が見えた」。本人が挙げたのは7月3日の巨人戦。実は直球の比率は49・6%で最初の2試合よりも低かった。背景には伊東ヘッドコーチの助言があった。
 「スライダーの割合を増やしてみ」。6月の練習試合で外国人の右打者に被弾し、自信をなくしかけていた球種。「外国人は打つよ。知らんやつは力なんやから」と背を押された。果たして、右打者への内角直球がより生きるようになった。
 最速152キロの直球を軸に、昨季の復活を支えたスライダーでもカウントを整えられれば、ツーシームやフォークの落ち球が威力を増す。7月31日のヤクルト戦(ナゴヤドーム)から14試合で10完投。一度付いた火は最後まで消えなかった。
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