熊本の豪雨対策 ダム依存に回帰するな

2020年11月21日 05時00分 (11月21日 05時00分更新)
 七月の熊本豪雨を受け、熊本県の蒲島郁夫知事は二十日、国土交通省に川辺川ダムの建設を要請した。看板政策だった「ダムによらない治水」からの転換だが、「コンクリートへの回帰」ではない。
 熊本豪雨では、球磨川が氾濫して流域の五十人が犠牲となり、六千戸超が浸水した。日本三大急流に数えられる球磨川はアユ漁が盛んな清流としても知られる。一九六〇年代から支流の川辺川に多目的ダムを建設する計画がある一方、水質悪化を懸念する地元住民らの反対は根強い。
 二〇〇八年に初当選した蒲島知事は計画の反対を表明。翌年に誕生した民主党政権は「コンクリートから人へ」のスローガンの下、建設中止を決めた。知事は「ダムによらない治水」を掲げ、河川管理者の国と県は河道の掘削や遊水地の整備、堤防のかさ上げなどを模索したが、抜本的な対策がとられないまま、今年七月、大水害に襲われた。県内各地で観測史上最大の雨量を記録したとはいえ、遅きに失した感は否めない。
 国は十月、もし川辺川ダムが完成していれば、浸水範囲は「六割減らせた」とする検証委の推計を公表し、地元でもダム建設を見直す機運は高まった。蒲島知事は、多目的ダムは否定し、平時は水を流し、洪水時のみ水をためる「流水型」ダムを提案している。環境悪化を心配する声を踏まえた折衷案というが、水質やアユなどへの影響が回避されるのかは不透明。流水型ダムは益田川(島根県)や足羽(あすわ)川(福井県)などに先行例があるが、豪雨時の実績データは少なく、実際の効果に未知数の部分もある。
 地元では賛成派と反対派に意見が分かれ、再びダム計画に翻弄(ほんろう)されるのかと嘆く声も少なくないと聞く。強調しておきたいのは多目的ダムにせよ、流水型ダムにせよ、人工建造物による「グレーインフラ」だけではもはや人の命は守れないということだ。
 検証委の推計にしても、被害減は六割にすぎず、ゼロにできるという話ではない。従来の枠に収まらない水害の多発を受け、国や地方はダムや堤防に加え、危険地域の開発規制や住宅移転の促進、早期避難体制の構築、さらに水田やため池など「グリーンインフラ」の活用など、流域全体であらゆる策を講じる「流域治水」の考えにかじを切っている。尊い犠牲を無駄にせぬよう、コンクリートだけに頼らぬ対策を可及的速やかに進めてほしい。

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