来日したIOCバッハ会長「ワクチン全額負担」発言の真意は…延期費用の負担を避けたい?

2020年11月17日 14時50分

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会談を前にグータッチを交わす菅首相とIOCのトーマス・バッハ会長(左)

会談を前にグータッチを交わす菅首相とIOCのトーマス・バッハ会長(左)

  • 会談を前にグータッチを交わす菅首相とIOCのトーマス・バッハ会長(左)
 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が来日しました。コロナ禍のため今年3月に東京五輪の延期が決まってから、初の来日です。
 この時期に日本にやってきた目的は、菅義偉首相、小池百合子都知事との会談を通して東京五輪の開催に向けた強い意思を発信すること。これは間違いないでしょう。五輪の中止はスポンサーや欧米テレビ局の放映権料でIOCが得てきた多大な収入に大きな影響を与えます。近代五輪はこれまで戦争による中止しかなく、開催の可能性がある限りはそれを追求することはトップの立場として当然だと思います。
 管首相、小池都知事との会談の内容は、ほとんどが予想通りでした。感染対策を徹底しながら「東京大会を実現し、成功させる」「そのために緊密に協力関係を築いていく」「観客を入れての開催を想定する」などです。その中で意外だったのは、バッハ会長がワクチンの話を持ち出したことでした。
 ワクチンはまだ完成していないにもかかわらず、その接種を選手、関係者に強制的にではないにせよ求め、さらにその費用について「IOCがコストを負担する」と言うのです。この発言を聞いたとき、私は「ああ、これが日本への手土産だったのか」と思いました。
 東京五輪の費用は、今年開催されていたとして1兆3500億円。うち約1兆1500億円は、国立競技場の建設や業者への支払いなどに既に充てられています。延期によって大会の簡素化を求められた大会組織委員会は、残る2000億円の中から国内外の関係者の人数を減らしたり、仮設施設の見直しをするなどで約300億円を削減しました。ただ、来年の五輪ではこれに延期による費用がプラスされ、その額は12月中に算出される見込みです。
 問題はこの延期費用をどこが負担するかです。収入の根幹を大会スポンサーやチケットの売り上げに頼る組織委は、コロナ禍で余力がほとんどありません。そのため国内外の選手団、スタッフら約3万人が複数回受けるPCR検査や観客のチェックなど感染防止対策の費用は国に負担してもらい、組織委の予算から外すことを考えているようです。
 ただ、それを国が了承したとしても、来年の五輪会場を既に借りていた事業者への補償金など、巨額の費用が発生することは避けられません。
 一方のIOCも、世界陸連など複数の国際競技連盟(IF)から「五輪の延期でわれわれにかかる費用はIOCが負担するべき」との声が上がり、苦しい立場に立たされています。五輪は選手がいなければ成り立たないため、IOCはもともと収入の大部分をIFに渡しています。今回もIFの声には最優先で耳を傾けているはず。そのため大会自体の延期費用は、日本と東京都に負担してもらいたいというのが本音だと思います。
 そのような状況におけるワクチン発言です。日本が治験などに慎重で、医師の多くがワクチンは来年7月の五輪開催に間に合わない可能性が高いと推測しているのを知って発言したのだとすれば、費用の全額負担は太っ腹でも何でもありません。間に合わなければIOCの負担は極少で済むわけですから―。
 そのバッハ会長、延期に関する追加費用の負担についてはこう答えています。
 「IOC、組織委としては議論を重ねているが、時間がかかる。今の段階ではしっかりとした数字を出すことは難しい」
 ワクチンとは対照的に、何とも歯切れの悪い回答です。今後も延期費用の負担をめぐる丁々発止の駆け引きが、主役であるべきアスリートたちとは懸け離れたところで続きそうです。
 ◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまでドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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