思えば落合博満は遊びのようにノックバットで“スライス回転”させていた『オレ流打法』でアーチ架けた中日・根尾に期待
2020年11月14日 11時39分
[ヘンリー鈴木のスポーツ方丈記]
プロ2年目を終えようとしているプロ野球中日の根尾昂内野手(20)が、13日に宮崎市のアイビースタジアムで行われた秋季教育リーグ「みやざきフェニックス・リーグ」のDeNA戦で特大の本塁打を右翼に放ち、来季への期待を一層に膨らませました。
注目したいのは、右翼ポールの外側から内側にスライス回転していった打球の軌道。「あれは落合さんが求めていた打球ですよ」。仁村徹2軍監督は驚きを隠さず話しています。
左打ちの根尾に対し、落合博満氏は右打ち。確かに現役時代の落合氏の本塁打は、ファウルと思われた打球がポールの内側に入ったものも多かった。その秘密がノックバットによる練習法にあると、突き止めたことがあります。
当時中日の4番だった落合氏は、キャンプで投球マシンに正対してカーブを払い打つ「正面打ち」や、打撃投手に時速80キロ程度のスローボールしか投げさせないフリー打撃など、独特な練習法が話題となりました。その中でノックをポール際に打つことを繰り返す練習が、まれにありました。
通常のノックは守備練習のために行います。しかし落合氏のノックは、誰もいないグラウンドで行うことが多かった。ノックバットから左翼方向に打ち上げた打球にはスライス回転がかかり、計ったようにポールの外側から内側に吸い込まれていく。逆に「これが難しいんだよ」と言いながら右翼方向に放った打球には、ポールの右から左に曲がるフック回転がかかっていました。ただ、こちらは曲がりきらずにそのままファウルになることもありました。
ゴルフでは球を打ち分けることがよくあります。スイングを上から見た時にクラブヘッドの軌道が体の外側から内側に入るアウトサイド・インの軌道で振ればスライス回転がかかり、逆に内側から外へのインサイド・アウトならフック回転となる。上級者になるとこれらの球筋をコースの形状や風向き、ピンの位置などによって打ち分け、攻略につなげます。
落合氏は同じことを野球でやろうとしていたわけです。理論としては成立しても、実際に投手が投げた球にバットで回転を与えながら打ち返すことは、常軌を逸していると言えるのではないでしょうか。少なくとも当時の私は、そう思いながら見ていました。
そしてもう一つ印象的だったのは、落合氏はこの練習を笑いながら、半ば遊びのように面白がって続けていたことです。練習は楽しみながら自ら取り組んでこそ身に着く―。まるでそう言っているようにも感じ、三冠王を3度獲得したバックグラウンドを見たような気にもなりました。
根尾は今回の本塁打を「自然と反応できました」と振り返っています。天性の反応を持っているのでしょう。ただ、この日の感触を意識して引き出せるようになった時こそが、本物のスター選手への入り口となるのかもしれません。落合氏が初めて打率3割を超えて33本塁打とブレークしたのはプロ3年目、27歳の時でした。20歳の根尾の成長が楽しみです。
◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまでドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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