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スランプ記者への楽天ウィーラーの絶妙助言。心配するな。記事を追いかけなくても、いずれ、記事が君を追いかけるようになるさ。いずれ、それは、やってくる

2019年5月20日 14時39分

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 読者の皆さま、お久しぶりです。ワタクシ、スランプでした。原因ははっきりしている。本コラムで3回にわたって書いた推定年齢99歳の武道家・猪熊達人にコラムのコピーを郵送したところ「お見事。君はタイプ的に小説家ではなく、随筆家じゃな。瞬間瞬間をとらえるのが実にうまい。ベリーグッ」と絶賛された。有頂天になったが、この時、既にスランプの悪魔が赤い舌を出してゲラゲラ笑っていた。褒められた凡人は、どんな末路をたどるか。もっと、良く思われたいと欲まみれになる。短距離打者なのに特大ホームランを打ちたくなる。そうなれば、どうなるか。フォームを崩し、打てなくなる。まさに、この身の程知らずが私めだった。
 天国から地獄。もんもんとした日々を過ごしたある日の朝、空から『神の声』が降ってきた。散歩中の愛犬が朝イチのウンチング態勢に入ったその瞬間「自分の弱みをさらけ出しなさい。それは、そこにあるから」という声がどこからともなく聞こえてきた。そうか!と思った。取材対象者に死にそうな顔で正直にスランプであることを告げ「スランプ脱出法」を聞けばきっと親身になってくれるに違いない。いやはや、こんな解決法があるとは。やはり、ネタは常にそこにある。まさに、コロンブスの卵。
たまたま、以前、担当していたプロ野球の楽天が東京ドームに来ていた。今季初の楽天取材。私のお目当ては前夜のサヨナラヒーロー、楽天のハクション大魔王ことゼラス・ウィーラー。紙面で20年以上展開してきた外国人アポなしインタビュー「WHO ARE YOU?」ではだいぶお世話になった。快く答えてくれるはずだ。試合前の練習開始前、ベンチでボケーッと座っていると、ウィーラーの方から「マイ、フレンド! 最近、見かけなかったけど、元気だったかい? 」と握手を求めてきた。予想以上の歓迎ぶりに私は長年の親友に語りかけるように早速、悩みを打ち明けた。
 実は、ジー(ウィーラーの愛称)に会いに来たんだよ。相談があってね。
「へ!? どうしたんだい。あらたまって。まあ、じっくり、聞こうじゃないか」
 実はスランプなんだ。原稿が書けないんだ。
「はあ!? お前なら、チョチョイのチョイとそんなの朝飯前だろ。一体、どうしたんだ? 」
 たぶん、ホームラン病かと。力むと打てなくなるだろ? あれと同じかと。
「あー、はいはい。あれね。肩の力抜きなよ。テイク・イット・イージーだよ。心をからっぽにして目の前で起きたことをありのままに感じたままに書けばいいじゃないか。そうすれば、無理して記事を追いかけなくても、記事の方から君を追い掛けるようになるよ。いずれ」
 まじ? バッティングと同じか。悪球を追いかけなくても、絶好球の方から勝手にバットに当たるようになると。なるほど。ジーのスランプ脱出法は? 
「物事を深く考えないことだよ。心を開放して、フリーにすれば、いずれ、それは、向こうからやってくる。いずれね。だから、心配するな」
いずれですか?
「そう。いずれ(Eventually)。さあ、笑っていこう」
ウィーラーはそう言うと、ヒャヒャヒャと笑いながらグラウンドに駆けだして行った。悩みなどなさそうなネアカの楽天家に見えるが、内面は実に繊細。ウィーラーと話したら心が楽になった。「ビッグスマイル、プリ~ズ」とお願いしたら、写真のようにポーズを取ってくれた。優しい男。
それにしても、いずれ、それは、やって来るって、良い言葉だ。でも、それって、なんだろ? 良い原稿か、ホームランか、スランプの出口か、それとも、何げないハピネスか。いずれと言いながら、それは、既に、そこにあって気づかないだけか。そんなことをボケーっと考えながら、練習を見ていると、ドームの天井からまた『神の声』が降ってきた。「お久しぶりです。今季初の楽天取材ですか? ハーマンがヨー(私の名前はヨージ)は最近見かけないが、どうしたのかなあと気にしてました。会いたがってましたよ。今、二軍でここにはいませんが」。見ると、顔見知りの球団通訳だった。へー、あのフランク・ハーマンが私のこと気にしてたのか。ちなみに、彼はハーバード大学卒で日米球界きってのスーパーインテリ投手。楽天に欠かせないセットアッパーだが、調子を崩してるのか。旧交を温めがてら、今度はハーマンに会いに行こう。
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