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ひたすら、言葉の筋トレをやり続ける元K―1ファイター

2019年5月7日 13時17分

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 魔裟斗やブアカーオらと激闘を繰り広げた元K―1ファイターの佐藤嘉洋さん(38)の引退後の人生が面白い。名古屋市内で整骨院とフィットネスジム2店舗運営する一方、自著を出版するなど実業家、作家としてバリバリ活躍している。でも、まあ、そこまでは、ありがちな話で驚くに値しない。何が面白いかと言えば、この男、妙にいつも楽しそうなのだ。たとえ、自分の身に悲劇が起きたとしても。
 3年前に名古屋市内の自宅に空き巣が入り、ほぼ全資産を失った時も「ボクはダタでは転ばない」と笑い飛ばし「ただじゃ、終わらねえぞTシャツ」を作成、Kー1会場などで発売。これが、バカ売れし笑いが止まらなくなった。
 佐藤社長の企業理念は「ふざけたことをまじめにやり続ける」なのだそうだ。その精神は遊びにも日常生活にもいかんなく発揮されている。フェイスブックでグラビアアイドルの佐藤嘉洋ランキングを寸評付きで配信し続けている。ひたすら、コツコツと。一銭にもならない。ただの自己満足。それどころか、一歩間違えば、ただのエロオヤジになりかねない。しかし、佐藤さんの地道な活動とその格調高い(?)グラビアアイドル論が認められ、このたび、週間SPA!に取り上げられた。佐藤ランキング委員長は「キックボクサー以外でここまで認められるようになったのかあ。よしよし。いいぞいいぞ」と感慨深げにつぶやき「自己満足でやってきたことにギャラも出る。ありがたい。これは、ますます、面白くなってきた。ウッシシ」と心底うれしそうに無邪気に喜ぶのだ。ギャラうんぬんではなく、この展開を純粋に楽しんでいる。脳内で自在に楽しめるこのメンタリティーなら無人島でも生きて行けそうだ。この様子を見ていると、記者も「オレも仲間に入れて!」と言いたくなる。
 さて、その佐藤さんの地道な活動の一つに辞書の旅がある。三浦しをんの『舟を編む』を読んで「今まで、オレはなんて、辞書に失礼なことをしてきたんだ!」と猛反省。2013年5月から毎日、コツコツ、熱で寝込んだ日も欠かさず、新明解国語辞典第7版の「あ行」から読み始めて読破。今、明鏡国語辞典の「さ」行に差しかかっている。そして、フェイスブックに日々、言葉の意味を書きだし、その言葉についての考察、さらに、その言葉を使って、ミニ小説も配信している。繰り返すが、一銭の金にもならない。一歩間違えば、自らの語彙(ごい)力の無さ、文章力の無さを天下に知らしめる行為にもなる。しかし、佐藤さんは意に介さない。呼吸するようにやり続けている。意味不明である。
 「単純に、自分の勉強のため。言葉は死ぬまで鍛えられますから。言葉の筋トレをしているようなものです。だから、ボクは年をとっても絶対にボケない」。佐藤さんの経営する整骨院の手作りのPR紙「ぶる~と通信」に自ら執筆するコラム「明生人嘉(みょうじょうじんか)」は63話を数える。これを、自転車でコツコツ、ポスティングするのも佐藤さんのルーティン。2児のパパであるが、自宅に読書部屋を作り、1日の終わりにその部屋にこもり、ニーチェなど哲学書を読み、妄想に浸る。何かひらめいたらSNSで配信する。もはや、仕事とプライベートの区別もない。オンもオフ、オフもオンな日々。
 「狂気の継続。やると決めたら、やり続けたい。考えることが楽しい。ただ、それだけ。自考力という言葉はボクの造語ですが、考えること自体が尊い。答えはどうでもいい」
佐藤さんの言葉力、妄想力は無尽蔵。記者としてジェラシーすら感じる。脳みその中で言葉の嵐でも吹き荒れているようだ。東京・品川のピザ屋でランチを共にし、新幹線の改札で別れた。しばらくすると、また哲学めいた詩を配信してきた。
 私よ。
15年前の私よ。
今の私はお前にとって、なかなか手ごわいぞ。
私よ。
15年後の私よ。
今の私はあなたにとって、まだまだ、かないませんか?
 現役時代も愚直なファイトスタイルだったが、今の佐藤ニーチェもどこまでもストイックである。でも、ちっとも、苦しそうには見えない。最近は、あちこちに「なにとぞ、なにとぞ」とお願いしまくるゆるキャラ「なにとぞ君」を考案し、拡散しまくっている。また、何かたくらんでいる。この男、やっぱり、妙に楽しそうなのである。
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