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四角いジャングルを離れ山に遊ぶ、元世界王者佐藤洋太の第二の人生

2019年6月18日 21時40分

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 この男はいつも、思わぬ時に見えない角度からパンチを放ってくる。先日、朝イチでプロボクシングの元WBCスーパーフライ級世界王者佐藤洋太から突然、電話がかかってきた。で、開口一番、「竹下さん、生きてますか? 生存確認の電話です」ときた。相変わらず、面白い男だ。2年前の電話の時も同じことを言ったが、私が簡単にくたばるとでも思っているのだろうか。そうはいくものか。
 「おー、どうした?最近、どうなの?」と問うと、洋太は「最近、○○にハマって、ヤバイす」と答えた。○○の部分は聞き取れなかったが、ハマって、ヤバいときたら、ドツボとかギャンブルとか借金とか悪い女とか、ネガティブな連想しかできない。引退から、6年。洋太もついに人生のワナにハマったのか。しかし、ハマってしまったものは、仕方ない。それも、人生。そう思い、私はもう一度、聞き直した。
 「ところで、なににハマった?」と。すると、洋太は「山っす。超面白いす」と明るい声で答えたのだった。なるほど、山遊びか。私は内心、ほっとした。朝っぱらから人の不幸話など聞きたくない。思い返せば、洋太は現役時代からハマりやすい男だった。ミドリガメを飼ったり、スケボーしたり。引退後は家族と共に故郷の岩手・盛岡に帰り、焼き肉店「焼き肉チャレンジャー」の店長をやっているが、趣味が高じて、スケボーパーク建築構想も進行中だとか。ハマりやすい男はそのハマったものについて、熱く語りたい習性も持つ。今は、山の面白さについて無性に語りたいらしい。実は、私も海か山かと問われれば、断然、山派である。いつの日か、人里離れた山中で自給自足しながら晴耕雨読の山暮らしをしたいという漠然とした思いをひそかに抱いている。だから、洋太に突然、山と言われてビビビときたわけである。
  へえー。山かあ。オレ、山好きなんだよねー。ところで、山でなにすんの?
「朝4時起きで、車で近くの山に出掛けて、まず、渓流釣りですよ。イワナとかヤマメとかね。で、川のせせらぎを聞きながら、沸かしたコーヒーを飲みながら、ボーッとしたりね。ほぼ、毎日。朝10時出勤なんで、9時過ぎには下山してきますけど。山にいると、時間が過ぎるのが早くて早くて。あっという間です」
 いいねえ、いいねえ。でも、釣りはイマイチ、好きになれないなあ…。
「釣りだけじゃないですよ。ブラブラ、ひたすら、山中をひたすら歩き回るんですよ。名もなき山で未開の地が多くて、洞窟もあるし、鹿の角とか拾い集めたり。いろんな発見があるんです。そのうち、自分の山にしたいなあと。まだ、暗いうちに行くと、いろんな動物と会えます。鹿とかテンとか。この前は真ん丸いでっかいフクロウがいました。かわいかったなあ。熊はまだないけど、足跡とか木に爪痕とか。いると思いますよ、熊」
 えーーーー。そうなんだ。山をブラブラは大いに結構だけど、熊とヘビはちょっと勘弁。(山派宣言した割りには、次第に尻込みする恐がりの記者)
「ヘビは 釣り用の長靴履いてるから大丈夫。熊よけに爆竹とか持って行きますから。いざという時は、車に逃げられるし。それより、ヒルに刺されるから、首にタオル巻いた方がいいかもです。ボクは特殊体質で刺されたことないけど。今度、行きましょうよ。案内します」
 そ、そ、そうなん?では、機会がありましたら、近くに寄った際は、こちらから連絡いたしますので。仕事もあるでしょうから、無理なさらぬように(最初はノリノリだったのに、いつの間にかよそよそしくなった記者)
洋太は盛岡で焼き肉店長をやりつつ、東京都西東京の東伏見駅近くの「Rerise Boxing Club」の副会長でもあり、月1回、上京し、トレーナーも務める。洋太のパーソナルトレーニングも受けられ、結構、人気なのである。電話の後、洋太が上京してくるというのでジムを訪ねた。私がいた時も世界王者拳四朗に憧れる少年が汗を流していたし、小学1年の少年が母親に連れられ、入門の手続きをとっていた。もちろん、大人もいる。なんでもやりたがりの私は取材のどさくさにまぎれて洋太にミットを持ってもらってパンチの指導もちゃっかり受けた。ボクシングはあらためて難しい、と実感した。そして、己を知ることもできた。やはり、やらなきゃ分からないこと、行かなきゃ分からないことがある。山も同じである、と思い直した。一汗かいた後、私が洋太に「山、いつ行く?」と聞くと、洋太の目がキラリと光った。
 「行きましょう。これは、都市伝説かもしれないけど、ヒグマとツキノワグマが野生で交配したハイブリッド熊というのがいるらしいです。鈴も人も恐れぬ人食い熊らしいですが。ま、それは、ともかく、これから、虫も多くなるし、秋にしましょうか?」
ハイブリッド熊と元世界王者の異種格闘技戦か、いいねえ、ロマンだねえ、2人で幻の熊を見つけに行きますかあ、アハハハとと調子良く言ってみた私だが、心の中では、そんな熊とは死んでも会いたくないと思うのであった。でも、山の爽快感を味わいたいと思う自分もいた。ま、秋まではたっぷり時間もあるし、じっくりと考えるか。洋太と行く山デビュー戦の際は、是非、このコラムで書いてみたいので、期待しないで待ってて下さい。
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