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私の師匠ヤクルト・ブキャナンが教えてくれたこと「車のフロントガラスはバックミラーよりはるかに大きい。なぜなら…」

2019年7月11日 16時03分

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 ヤクルトのデビッド・ブキャナン投手に会いに2軍戦が行われた埼玉・戸田球場を訪れた。昨年はチームは2位に躍進し、ブキャナンも主戦投手としてフル回転。しかし、今年は、チームは最下位に低迷し、ブキャナンも不振。ブキャナンと言えば、私が師匠と呼ぶほどの名言博士。苦境の中で、何かタイムリーな言葉を教えてくれるかもしれない。そんな期待があった。
 朝飯抜き。満員電車に揺られ、私は朝9時にはグラウンドにいた。しかし、速攻で取材を終わらせようと思った私の目算は狂った。その日、巨人との試合に先発予定のブキャナンの姿がない。聞けば、球場近くの屋内練習場でアップをしているという。試合開始は午後1時。ブキャナンが球場に現れたのは12時すぎ。1軍では試合直前の先発投手に語りかけることはない。しかし、2軍の調整登板ならピリピリ感もない。しかも、ブキャナンに会うのは、昨年の秋以来。久しぶりの再会を喜んでくれるだろう。そう思い「君にハーイを言いに来たんだ」と言いながら近寄ると、微笑したただけでクールな反応。私は少し動揺したが、負けじと質問をしようとしたら、ブキャナンは駆け寄ったファンにサインを書き始めた。思わぬ展開。私はそこに存在しない透明人間と化した。サインを書き終えたブキャンがグラウンドに向かう。おい、行っちゃうの? 師匠、そりゃないぜ! ブキャナンなんてキライだ。そう思った次の瞬間、師匠が振り返った。「投げ終えたら話そうよ」。その瞬間、私はブキャナンが大好きになった。一生、付いていこうと思った。我ながら単純過ぎる男だ。
 試合は出合い頭の一発を打たれたものの5回1失点の好投。私が見た限り、いつでも一軍に復帰してもいい内容であった。投げ終えたブキャナンに話し掛ける。
ナイスピッチングです。いつでも、一軍で投げられますね!
「もちろん」
 そもそも。今季の不調の原因は? 
「ハードラック。運に恵まれなかっただけ。いつものようにゴロを打たせても、野手の間を抜けたりとか。ツキがなかった。そこが、野球の難しさだよ。一軍に戻ったら、アグレッシブに打者を攻めるだけだよ」
 でも、2軍にいると、悪いことばかりじゃないのでは? 謙虚な気持ちになれたり、新しい発見があったり…。
「謙虚になるとかならないとか、今のボクには当てはまらない。そういう問題じゃないから」
 ごもっともです。ところで、昨年秋に生まれた長男のブラッドリー君は元気ですか? 
「パーフェクトなベイビーだよ。9か月だけど。そろそろ、歩き始めるよ。アスリートだから」
 子供のためにもまだまだ稼がないとですね! 
「引退なんて先の話だよ。健康である限り、ボクを必要とする球団がある限り。40歳(今、30歳)まで投げたいね」
 ところで、例のやつ、お願いできますか。ほら、恒例の今日の名言。一昨年の連敗中、雨空を見上げながら『どんな雲にも銀の縁がある。そのうち、いいことがあるさ』と言いました。昨年のキャンプ中には『全ての呼吸がギフト、神の贈り物』と言いました。また、シーズン中に「旅に目的地はない。旅そのものが目的地なんだ」と言いました。さあ、今回はなんでいきますか? 
「おー。例の(ニヤリ)。ちょっと、待てよー。いつも気に入った名言とか使える言葉をメモしてるんだ。突然、言われると思い付かないなあ」
時間はたっぷりありますから。ゆっくり、考えて(突然、ずうずうしくなる記者)
「よしっ。これは、どう? 過ちを犯し、悔い改めて、もう、その行いをやめたのに、それでも、(自分や他人を)責め続けるのは、罪を犯してない無実の罪で有罪にするようなものだ。どう、分かる?」
 ふーむ。なんか、宗教的な表現ですね(眉間にシワを寄せ、訳知り顔で考え込む記者)
「全然。ミステークを犯し、悔い改めたら、いつまでも、そのことを考えてクヨクヨせずに前を向けと」
あー、はい、はい。つまりは…
「過去に生きるなということだよ」
 そう! まさにそれ! 来ました! やっと、来ました! 
「車のフロントガラスはバックミラーよりはるかに大きいだろ? なぜだか分かる? 過去に起きたことより、前に広がる現在から未来の方がはるかに重要だからだよ」
 振り向くなと。前を向けと。振り向いてばかりじゃ、事故っちゃうよと。分かりきったことだけど、たとえが、絶妙でシンプル。早速、帰ったら、フロントガラスの話、中1の我が娘に教えてやります。ランチ抜きで待った甲斐がありました(笑)。
荒川土手に吹く7月の風が私を優しく包み込んだ。写真を撮ろうとスマホに手を伸ばすと、「写真を撮らせてください」とファンが駆け寄った。私はまたも透明人間になりそうになったが、ファンの後に私も撮らせてもらった。気が付けば、午後3時を過ぎていた。私のおなかの虫が遠慮勝ちにグーッと鳴った。
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