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音楽が人々をつなぐアイルランド島 ラグビーW杯

2019年8月26日 18時00分

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ラグビー・アイルランド代表(AP)

ラグビー・アイルランド代表(AP)

 もう10余年前にさかのぼる。京都の赤ちょうちんの灯る酒場で、大学の先輩とラグビー談義になった。老舗ひしめく京漬物の業界に飛び込んだ若社長は、世界のラグビーに詳しかった。
 アイルランドの応援歌が話題に上った。筆者が知ったかぶって「モリー・マローン」を口にすると、「それはダブリンの歌。昔は歌われていたけど」とやんわり否定された。
 「ザ・フィールド・オブ・アセンライ」(アセンライの地)。同国内で最も人気のある応援歌として教えてくれた。
 それから、アイルランドの試合はテレビの音に耳を澄ました。なるほど、たしかによく歌われている。力の入る緊迫した場面では、大合唱がスタジアムにこだまする。ラグビーに限らない。サッカーでも歌う。アイルランド寄りの英国港町を拠点とするリバプールの試合でも、同じ旋律を聞いた。
 この曲は「古典的な国歌」と紹介されるほど、親しまれている。歌詞の題材は、英国支配下時代の大飢饉(ききん)。家族思いの夫が、トウモロコシ畑でわずかな盗みを働き、流刑されるのを妻が嘆き悲しむ。こんな哀愁を帯びた歌を、アイルランド人は誇らしく、そして陽気に歌うのだ。
 おそらく国民性なのだろう。駄文になるが、先日取材で訪れたダブリンでパブ(酒場)に立ち寄った。バーマンは日本に滞在経験のある親日家。腕には「井の中の蛙(かわず)大海を知らず」と彫ってある。句の意味を知っているのか問うと「もちろん」と相好を崩した。
 今年のゴルフ・全英オープンは、アイルランド島北端のロイヤルポートラッシュで開かれた。グレートブリテン島を離れるのは68年ぶり。その歴史的な大会で優勝を飾ったのは、アイルランドの32歳、シェーン・ローリーだった。ローリーは「ホーム」という言葉を何度も使って地元での美酒に酔いしれ、観衆は「古典的な国歌」で祝した。ローリーも歌った。地元のパブで両腕を挙げて熱唱する姿は、ユーチューブ(動画投稿サイト)にアップされている。
 たしかに、領土でみると北アイルランドは英国で、アイルランドではない。宗教や政治の問題が複雑に絡み、紛争が絶えなかった2国間には国境が横たわる。しかし、ゴルフでは1つの国なのだ。実際、北アイルランド出身のロリー・マキロイは5月、東京五輪にアイルランド代表としてプレーする意欲を示した。ロイターによると、「アイルランドのためにプレーすることに心躍る。それが少年時代の夢だった」と語っている。北アイルランド人は英国、アイルランド両代表のどちらかを選べるのだ。
 日本では間もなく、ラグビーW杯が開幕する。日本にとって1次リーグ最大の難敵はアイルランドだ。アイルランド代表は、サッカーと違い、北と統合して編成される。そのため試合前に国歌として歌うのは、ラグビーW杯のために作曲された「アイルランズ・コール」。1995年から採用されている。全島民が肩と肩を寄せ合っていこうという思いが込められ、最近はホッケーの代表チームも国歌として歌う。
 アイルランドは歌によって結ばれている。W杯期間中、オーストラリアや米国など世界各国から、2万5000人のアイルランドサポーターが来日すると予想される。心を通わしたいなら、この2つの国歌を覚えよう。歌は国境を越えていく。 (末松茂永)

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