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代表監督は「辞めた!」って言える。でも…… 岡田武史さんが今、背負う60人の生活

2019年9月27日 18時00分

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サッカー元日本代表監督の岡田武史さん(63)が日本サッカー殿堂入りした。日本フットボールリーグ(JFL)のFC今治で会長を務めている岡田さんは「(子供のころは)プロ野球選手になりたかったんですよ。小学生までは(プロ野球の)南海ホークス子供会に入って野球をやってましたから。だから、サッカーはうまくないんですよ。ハハハハ」と笑い飛ばす。
思い返せば、数奇な人生だ。
日本代表監督を2度務めたが、ともに途中登板だった。苦戦が続いたW杯フランス大会アジア予選中には自宅に脅迫状が届き、警察が24時間態勢で張り付いた。安全のため車での通学を余儀なくされた息子は、父親が酷評されているテレビ番組を見ながら泣いていたこともあったという。
ファンの心無い責め、メディアの残酷な批判にもさらされたが、監督の仮面を脱げば、そこには軽妙洒脱(しゃだつ)ないつもの「岡ちゃん」がいる。
栄えある殿堂入りの掲額式に家族の姿はなかった。岡田さんは「言ってないもん。言っても、来てくれないけどね(笑)」と自虐的に語り、「家でのおれのヒエラルキーは(一番上に)かあちゃん(妻)がいて、その次に子供がいて、さらに犬と猫の下よ」と止まらない。
非情な決断を重ね、重責を全うしてきた元指揮官はいま、約60人の社員を抱え、Jリーグ昇格に向けた熾烈(しれつ)な戦いとともに、Jリーグの基準に満たしたスタジアムの建設に奔走している。
「代表監督の肩書は、『この野郎』(という反発心)で耐えていればいいんですよ。嫌になったら、『辞めた』って言える。ただ、経営者はじわじわ、真綿で首を絞められるような(重圧がある)。社員と社員の家族、みんなを食わせなきゃいけないから、『辞めた』って言えない。(日本代表監督とは)全然違うプレッシャーだよね」
現場とフロント。立場は違えど、トップに立って指揮する原動力に変わりはない。極限の戦い、修羅場を何度もくぐり抜けてきた男だ。苦難だらけの道程であっても、「社員がイキイキと働いている姿を見ると、やっぱりやりがいを感じるよね」とにこやかに笑う。
岡田さんの座右の銘は、今も昔も「人間、万事塞翁(さいおう)が馬」。人生においては、災いと幸せが常に変転していくという中国の古典の言葉だ。ただ、岡田さんには災いを最後には幸せに転じさせてしまう不思議な力がある。記者には、そう思えてならない。(松岡祐司)

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