リニア着工 流域住民らJR提訴、工事差し止め求め

2020年10月31日 05時00分 (10月31日 05時03分更新)
静岡地裁に提訴し、会見する桜井和好さん(左から2人目)=30日午前、静岡市葵区の弁護士会館で(斉藤直純撮影)

静岡地裁に提訴し、会見する桜井和好さん(左から2人目)=30日午前、静岡市葵区の弁護士会館で(斉藤直純撮影)

  • 静岡地裁に提訴し、会見する桜井和好さん(左から2人目)=30日午前、静岡市葵区の弁護士会館で(斉藤直純撮影)
 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事を巡り、市民団体「静岡県リニア工事差止(さしとめ)訴訟の会」は三十日、大井川源流直下をトンネルが貫通することで流域や自然環境に悪影響が及ぶとして、JR東海に対し、県内区間(静岡市葵区、一〇・七キロ)の工事の差し止めを求め、静岡地裁に提訴した。 (五十幡将之)
 原告は、生活用水や農・工業用水を大井川から取水する八市二町に住む六十七人を筆頭に県内外の弁護士を含む計百七人。
 訴状によると、工事で川の流量が減った場合に流域住民の平穏な生活が脅かされる可能性が高く、南アの自然環境や生態系も破壊されかねないと指摘。環境影響評価の不十分さや、トンネル掘削で発生する残土の問題などに十分な説明がないままの着工は許されないと主張している。
 提訴後の会見で、原告団共同代表を務める大井川流域農家の桜井和好さん(70)=島田市=は「水がなくなれば稲作はできない。JRは補償すると言うが、失われた水は戻せず本当の補償はできない。水が減っても工事の影響か、証明は難しく不安が払拭(ふっしょく)できない」と話した。
 弁護団事務局長の西ケ谷知成弁護士(48)は「そもそも中央新幹線が必要なのか、静岡の問題をどう考えるのか。十分な説明がない中での工事に待ったをかけ、裁判の場で議論したい」と話した。
 提訴を受け、JR東海は「そのような報道があったことは承知している。訴状が届いたら内容を確認の上、適切に対応してまいりたい」とコメントした。
 静岡県の川勝平太知事は工事によって大井川の水量や地下水、南アの自然環境などに影響が出る恐れがあるとして、県内の本体工事着工を認めていない。現在、国土交通省の有識者会議がどんな影響が出るのか議論している。
 リニア工事を巡っては、品川−名古屋間沿線の一都六県の住民らが工事実施計画の認可を取り消すよう国に求め、東京地裁で係争中。JR東海を相手取ったリニア工事の差し止め訴訟は、山梨県南アルプス市の事例についで二例目。

◆率直な不安を法廷へ

 <解説>大井川流域の住民たちがリニアの事業者のJR東海を相手取り、工事差し止めを求めて提訴したことで、表情が見えにくかった流域一帯の危機感が、法廷で明らかになる。工事によって生活を脅かされかねない一般市民の率直で不安な声を、法廷に届けるための裁判といえる。
 リニア工事を巡っては東京地裁で、沿線の一都六県の住民らが計画を認可した国を被告に取り消しを求める行政訴訟を先行。認可手続きの妥当性などを争う。今回は流域住民の生活が工事で本当に脅かされるのか、検証をJRが十分に行っているのかなどが、争点になるとみられる。
 JRは環境影響評価の準備書で、トンネル掘削により、何も対策をとらなければ大井川の水量が毎秒二トン減る可能性があると報告。大井川の水は八市二町で生活用水や農業、工業用水として使われ、ただでさえ例年、節水制限がかけられることも少なくない。減少すれば、特産のお茶など流域の産業に大きな影響を及ぼしかねない。
 訴状では、コロナ禍で新幹線の利用が減る中、コロナ後のリニアの必要性にも言及。工事で環境や生活を破壊するリスクを冒しながらも、行う公益性はあるのかも問われる。 (静岡総局・五十幡将之)

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