コロナ時代で演劇にできること 短い結婚生活をめぐるドラマ「the last night recipe」 夫婦と親子の幸せは…

2020年10月31日 06時00分

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楽しげな関係でありながら、思いのズレが顕わになる良平(杉原公輔)(左)と妻の夜莉(橋爪未萌里)=東京の座・高円寺で(木村洋平撮影)

楽しげな関係でありながら、思いのズレが顕わになる良平(杉原公輔)(左)と妻の夜莉(橋爪未萌里)=東京の座・高円寺で(木村洋平撮影)

  • 楽しげな関係でありながら、思いのズレが顕わになる良平(杉原公輔)(左)と妻の夜莉(橋爪未萌里)=東京の座・高円寺で(木村洋平撮影)
 佳作を連発している劇作家・横山拓也の演劇ユニット「iaku」の新作「the last night recipe」は、コロナ禍で上演されている作品の中でも、とりわけエポックになりそうな仕上りだ。
 演出も手掛けた横山は、鋭い観察眼をうかがわせる緻密なセリフを得意とする会話劇の名手。
 新婚の妻・夜莉(橋爪未萌里)が、毎日の晩ご飯の記録をアップしたブログのタイトルが「ラストナイトレシピ」だ。料理の写真と簡単な感想や思いが書き込まれている。そんなある日、夜莉が突然死してしまう。大きな出来事だが、それは物語のきっかけに過ぎない。死に至る前と短い結婚生活、死後の状況が、周囲の人物によって描き出される。
 夜莉は、物書きの先輩として尊敬していた綾(伊藤えりこ)に言わせると「野望を抱いたフリーライター」。30歳を前に、本を出版して世に出たいという焦りも見える。
 実際、ある取材から深掘りできそうなネタをつかんで、熱心に取り組むのだが、綾には「対象に入り込めていない」と言われてしまう。その直後の意外性十分の結婚。
 夫の良平(杉原公輔)と夜莉との会話は、第三者として聞く分には十分面白いのだが、二人の考え、思いのズレが次第に如実になってゆく。そもそものことで言えば、良平と父親のラーメン屋の大将(緒方晋)との関係がクローズアップされてゆくにつれ、親子関係の内実は夜莉の想像を超えて何が正しいことなのか、計り知れなくなる。
 日常のスケッチの積み重ねの中に、貧困や格差の問題を内包させつつも、そこをクローズアップするのではなく、何を持って幸せというのか、大事なことはなんだろうかという今日的テーマが見えてくる。一人娘を失った夜莉の両親、綾や元カレの早田(小松勇司)の思い、良平の生き方などそれぞれの問い掛けが、2020年の観客に向かってくる。
 時間軸を行ったり来たりして目まぐるしい“カット割り”は、違和感がなく構成の妙に感心させられる。その一場面一場面を難なくこなし、細やかな心情を表現する俳優陣の力量がそろっていて思わず引き込まれる。
 長いテーブルなど舞台美術、ソーシャルディスタンスを意識した演出にコロナの影響が見えるし、劇中にもコロナ絡みの内容が含まれる。オンライン配信など演劇の新たな上演形態が珍しくなくなったが、横山は「やっぱり稽古場で作品をつくり、劇場でお客様に目撃してもらうことが望ましいと考えてしまいます」。これだけの作品を上演できるのだという矜持を示したように感じられた。
 11月1日まで東京の座・高円寺、同5~8日伊丹市立演劇ホール。(本庄雅之)

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