中日春秋

2020年10月28日 05時00分 (10月28日 05時01分更新)
 室町期の武将、太田道灌(どうかん)には古歌にまつわる知られた言い伝えがある。いくさの際に夜行く道を選ばなければならなくなった。今は引き潮だからと、海辺の道を主君に進言し、味方を無事移動させたという
▼<遠くなり近く鳴海(なるみ)の浜千鳥鳴く音に潮の満干(みちひ)をぞ知る>。鳥の声と潮のつながりを詠んだ古歌を知るがゆえの手柄と伝えられる。古きを知ることで道を間違えることはないという説話のようでもある
▼古人の知恵が、よりいっそう重く感じられる、コロナ流行下の世の中ではないだろうか。この春以降、何冊か古い書物を手にしてきて強く思う
▼英国の作家デフォーが十八世紀に書いた『ペスト』には、感染症の流行下で、主人公の商人が仕事か命を守るための行動か、と悩む場面がある。第二波の恐ろしさも記されていて、まるで今日の世界のために書いているように思える。日本の古典では『徒然草』を開くと、世の中は虚言ばかりだと書かれている。フェイクニュースが相次ぐ今、道を間違えないための言葉のようにも読める
▼読書週間が始まった。十一月一日は古典の日という。コロナ関連に限らず、読書で古きを知ることは道を間違えないための重要なすべであろう
▼<すべて良き書物を読むことは、過去の最もすぐれた人々と会話をかわすようなものである>。デカルトのものという言葉も今年は重く感じられる。

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