(61)「鬼滅の刃」 技の追求 闘病に重ね

2020年10月27日 05時00分 (10月27日 11時16分更新)
 話題騒然の「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」。私もすっかりはまっています。映画は公開初日と五日目に二度見ました。コミックスも今までに発売された二十二巻をそろえて、夜な夜な読んでは涙しています。どうしてこんなに引かれるのかというと、自分の闘病に重なる部分がたくさんあるのです。

一つの技を極める我妻善逸が大好き


 魅力的な登場人物たちの中でも私が特に好きなのは我妻善逸(あがつまぜんいつ)というキャラクターです。彼は鬼殺隊の剣士の一人で、小心な性格が災いして、六つの技のうち一つしか習得できなかったのですが、師匠である「じいちゃん」からこんな言葉をかけられます。
 「一つのことしかできないなら、それを極め抜け、泣いていい、逃げてもいい、ただ諦めるな、信じるんだ、お前は必ず報われる」
 このやりとりに、自分が岐阜県高山市のホテルに職場復帰したときのことを思い出しました。
 手術で舌を切除し、言語障害が残って、お客さまの前に立ったり、電話に出たりすることができなくなり、フロント業務から、事務仕事に移りました。フロントの仕事にやりがいと誇りを感じていたし、新しい仕事はだれにでもできることだったので、とても悔しく思いました。でも「あなたはしゃべれないから、これしかできないのでしょう」と言われるのが嫌で、だれよりも質の高い仕事をしようと思い、懸命に頑張りました。
 フロントをバックアップするため、念を入れて予約の確認をしたり、使いやすいようにデータを整理したりしました。発声のリハビリにも励んだおかげで、スタッフ同士なら電話の受け答えもできるようになりました。
 努力を認めていただけたのか、新たに集計の仕事も任せてもらえるようになり、名古屋に定期的に通院して治療やリハビリを続けながらも、一人前に働けるという自信を持つことができました。
 その後、抗がん剤治療が始まって、退職を選びましたが、この経験は私にとって大きな力になりました。病気でできなくなったこと、あきらめたこと、手放したものもたくさんあります。でも、一生懸命やっていれば、むしろがんになる前よりできるようになることもある。道は開けると信じられるようになりました。
 一つのことを極め抜いて、我妻善逸が習得した技「霹靂一閃(へきれきいっせん)」は極限まで磨き抜かれたからこそ、強く美しく強靱(きょうじん)な刃です。私はそこにとても引かれるのです。
 あらい・りな 1974年生まれ。岐阜県在住。2015年に腺様嚢胞(のうほう)がん(ACC)で舌を切除。闘病とリハビリを続けている。

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