クラスターの教訓 浜松の医療現場から (上)発生

2020年10月24日 05時00分 (10月24日 05時03分更新)
 一日最多で三十人、累計百四人。今年の夏、浜松市を襲った新型コロナウイルスの「第二波」は、クラスター(感染者集団)という形で一気に広がった。医療の現場は前例のない事態をどう乗り切ったのか。発生から三カ月。インフルエンザとの同時流行も懸念される冬を前に、関係者の証言から検証する。
 新型コロナに感染した疑いがある人々の車が列をなしていた。百人以上の鼻の奥を綿棒でぬぐい、検体を採る作業を一日で終えるには、一人二分もかけられない。気温、三〇度超。防護服の下で、汗が滝のように流れ出た。

 ◆「夜の街」一挙に30人 検査、行動確認手足りず

 七月下旬。浜松市健康福祉部の板倉称(しょう)医師(58)は、トレーラーハウスを転用したPCR検査センターでの屋外作業に追われていた。一カ所で五人以上となるクラスターが市内で初めて発生。濃厚接触者を調べるため、数日前まで一日十人程度だった検査数が十倍以上に膨らんでいた。担当医は自分を含めて二人だけ。熱中症の危険を感じつつ「陰性であってほしい」と祈るような思いでいた。
 発生現場は「夜の街」だった。繁華街のラウンジとマジックバーで、店員や客の感染が相次いで判明していた。濃厚接触者は多くの場合、患者一人に対して五人ほどいる。顧客リストがあったため来店者はたどりやすかったが、二店とも七月二十四日にクラスターと認定され、その夜にはさらに三十人の感染が確認された。
 予想を上回る数に、浜松市保健所の落合公信・生活衛生課長補佐(47)は当初、検体採取での誤作業を疑った。しかし、検査結果は、感染が家族や友人にも広がっていることを示していた。「この先どうなるのだろう」。不安を押しやって行動履歴の確認を急いだ。陽性だった人への連絡が遅れれば、感染を広げかねないためだ。
 いつ、どこで、誰と会ったのか。電話で詳しく聞き取り、判明した接触者に即座に連絡した。検査を渋る人には丁寧に説得に当たった。ただ検査態勢と同じように人手が足りなかった。通常業務を終えた市職員が応援に入ったが、入浴のため深夜に一時帰宅しては、すぐに仕事に戻る生活が続いた。
 政府は九月になって、コロナの心配がある人はまずかかりつけ医に相談し、検査を受けてもらう方針を打ち出した。浜松市医師会は現在、開業医と調整を進めている。業務が集中していた保健所の負担軽減が期待されているが、行動履歴の調査などは引き続き担うため、落合さんは「いつでも応援に入ってもらえる当番体制を組んだ」と話し、「第三波」を想定した備えを固めている。
 クラスターの発生は並行して、入院先の確保を迫った。三十人の感染が確認された二日後に開かれた市幹部による対策本部会議。報告されたコロナ向けの病床数は、わずか二十五床。増え続ける感染者を収容できる数ではなかった。

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