「奮闘」はんこ文化守る 石川県内老舗後継 需要掘り起こし

2020年10月22日 05時00分 (10月22日 10時06分更新)
疫病退散の御利益があるとされる「アマビエ」のスタンプやマスクなどを商品化した鶴見昌平さん=金沢市高岡町で

疫病退散の御利益があるとされる「アマビエ」のスタンプやマスクなどを商品化した鶴見昌平さん=金沢市高岡町で

  • 疫病退散の御利益があるとされる「アマビエ」のスタンプやマスクなどを商品化した鶴見昌平さん=金沢市高岡町で
  • イラストやデザインの仕事も受け付ける水田綾子さん=石川県七尾市相生町で

◇方言をスタンプに デザインの仕事も


 菅政権が提唱する行政手続きのデジタル化で苦境が予想される印章業界。「はんこレス」の流れが加速しかねないと、関係者の危機感は強い。市場の先細りが見込まれる中、北陸地方では老舗を継いだ若手が「伝統ある印章文化を残していきたい」と奮闘している。(瀬戸勝之、稲垣達成)
 金沢市高岡町にある創業約百五十年の「鶴見印舗」。五代目の鶴見昌平さん(44)は国家資格の一級印章彫刻技能士を持ち、手彫りの実印や銀行印の注文をこなす一方、新たな需要の掘り起こしにも努めている。
 「あんやと」「いいじ」。金沢弁を押印できる「金沢ことば」は北陸新幹線開業を機に観光需要を狙って売り出した商品だ。兼六園や梅鉢紋など多彩なスタンプも店内に並ぶ。
 コロナ禍でマスク着用が日常化すると、六月にマスクに企業ロゴなどをワンポイントで押印できるスタンプを発売。中でも疫病退散の御利益があるという妖怪「アマビエ」のスタンプは人気で、印刷したマスクも商品化した。
 九月中旬には三日間、ひがし茶屋街そばに期間限定ショップを出店。観光客らに手彫りの技を披露しつつ、字体や素材を説明した。手応えを感じ、今後も場所を変えて出店するという。
 鶴見さんは「押印が必要な書類を減らすなど慣行を見直すことが大切なのに、はんこが悪者扱いされている」と指摘。「デジタル印章の技術もあるが情報漏えいのリスクがあり、システム維持費もかかる。実印などの需要はなくならないはずだ」と力を込める。
 創業百五十年余りの「赤坂印判店」(石川県七尾市相生町)を引き継いだ水田綾子さん(34)は全国でも珍しい女性の印章彫刻士だ。
 先代の祖父・赤坂冨雄さん(享年七十九)の背中を見て育ち、幼い頃から職人の手仕事にあこがれてきた。富山大芸術文化学部一年の時、祖父が亡くなると「自然と店を継ぐ気持ちになった」。卒業後に帰郷。横浜市内の印章高等職業訓練校に二〇一三年に入校し、週末に七尾から通った。一六年三月、念願の一級印章彫刻技能士の資格を取得。確かな技で、太さが異なる刀を巧みに使い分け「かわいらしさを出すため曲線を多くしたり、逆にキリッとさせたり」と顧客の要望通りに文字を刻む。
 「店がなくなると困るお客さんも多い。途絶えさせるわけにいかない」と水田さん。得意の絵を生かし、似顔絵のイラストや会社のロゴデザインなどの仕事も受け付けようと模索中だ。「本業を軸にチャレンジしていきたい。はんこを守ることにもなると思うから」

進むオンライン申請 


 全日本印章業協会によると、印章製品の市場規模は業界誌調べで2018年度に約1700億円。人口減少の影響はあるものの、近年はほぼ横ばいが続く。もっとも行政を中心にオンライン申請の導入が進んでおり、認印の需要は減少していく見通しという。
 高齢化や後継者不足で、協会の会員数は右肩下がりが続いている。石川県内では20年前に約30人いた会員は現在、11人に減少。富山県内は23人でピーク時から半減したという。石川県印章組合の南外志明組合長(70)は「個人経営店が多く、先代が亡くなると終わる店がほとんど」と明かす。

【メモ】印章彫刻技能士=技能検定の一種。実技と学科試験があり、等級は1級と2級。厚生労働省によると、2018年度までに資格を取得したのは、いずれも延べ数で1級2391人、2級1445人。


関連キーワード

PR情報

北陸発の最新ニュース

記事一覧