<大波小波> 今年のノーベル文学賞

2020年10月19日 16時00分 (10月19日 16時00分更新) 会員限定

 ルイーズ・グリュックがノーベル文学賞を受賞した。なのに日本では彼女について、一冊の翻訳も研究書もない。今年の下馬評にも名前はなかった。これは日本のアメリカ文学者の怠慢である。だがそれ以上に、文学とはどこまでも小説であり、詩(とりわけ女性の)は圏外だという日本人の狭量な文学観を示している。情けない限りだ。
 今から半世紀前、各出版社が世界文学全集を刊行し競い合っていた頃、集英社のそれは異彩を放っていた。二十世紀の詩だけで一巻が設けられ、巨匠パウンドやカヴァフィスとともに、ヨシフ・ブロツキーという二十八歳の詩人までが訳出されていた。ブロツキーはその後ソ連から亡命し、ノーベル賞を受けた。選者篠田一士(はじめ)の炯眼(けいがん)ぶりが偲(しの)ばれる。
 村上春樹の受賞云々(うんぬん)という話題は、巨大なテロ事件が起きた時、幸いにも日本人被害者は皆無でしたと報道する次元の話である。いい加減、やめた方がいい。アメリカ文学翻訳者は村上が敷いたレールの上を離れ、もっと虚心になって、アメリカという巨大な文学の全体に向き合うべきだ。ニューヨークではもう十年以上前に佐藤紘彰の手で、六百頁(ぺーじ)もの日本女...

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