【シネマ!ネタバレ注意】本当の”恐怖”とは戦災ではなく戦争によって変わりゆく「人間性」なのかもしれない…

2020年10月17日 20時00分

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聡子(蒼井優・左)と貿易商の夫・優作(高橋一生)(c)2020 NHK, NEP, Incline, C&I(スターキャット提供)

聡子(蒼井優・左)と貿易商の夫・優作(高橋一生)(c)2020 NHK, NEP, Incline, C&I(スターキャット提供)

  • 聡子(蒼井優・左)と貿易商の夫・優作(高橋一生)(c)2020 NHK, NEP, Incline, C&I(スターキャット提供)
【映画紹介「この1本」】「スパイの妻<劇場版>」(公開中)
 ジャパニーズホラーの旗手といわれる黒沢清監督が、戦争が生む狂気を“恐怖映画”として描いた。ベネチア国際映画祭で監督賞に値する銀獅子賞に輝き、2003年の北野武監督「座頭市」以来の栄誉となった。
 太平洋戦争開戦が迫り、聡子(蒼井優)と貿易商の夫・優作(高橋一生)の穏やかな日常は刻々と変化する。殺伐とした空気が日本に漂う中、夫の国家機密を暴く計画を知った聡子は制止するが彼は耳を貸さず|。
 焦点を当てた“恐怖”は戦災ではなく戦争で変転する「人間性」だ。西洋品を好む優作らが世間から浮かぬよう気遣い、人情味あった泰治(東出昌大)は憲兵分隊長に任命され、責務から爪をはぐ拷問もいとわなくなる。卑劣な国家の横暴を公にすべきだという正義感から優作は妻を省みず、熱狂。共謀者となる優作の甥(おい)文雄は人が変わったかのように声を荒らげ、純真な聡子もまた夫の志を全うするため、人を欺く賭けに出る。
 執心、疑心、野心…。戦渦における、可視化できない「心」の変遷を黒沢監督はホラーとして色づけた。実力派俳優の巧みなせりふ回しや表情を注視し、観客は彼らの本心を探って疑心暗鬼して肝を冷やすはずだ。
 表現法にも着目したい。妻と甥がせめぎ合う場面は風が吹きすさび、2人の心の荒れ模様を表す。優作が揺らすガラスのコップ内で氷が転がる乾いた音は聡子の心の動揺を映す。カット割りも秀逸で、俳優の背中だけで不安や失意、決意などの心情を伝える。緻密に積み上げた場面づくりに感嘆されっぱなしで、幕切れまでくぎ付けになってしまう。
<あらすじ> 1940年、神戸で貿易会社を営む福原優作は満州(中国東北部)で恐ろしい国家機密を知り、世に知らしめようと動き始める。夫の企てに気づいた妻・聡子は動揺しながら、自分が「スパイの妻とののしられても、それがあなたの正義か」と涙ぐみ訴えるが、夫の決意は固く揺るがない。聡子は愛する夫を守り、ともに生きるために、思わぬ単独行動に出る。(ミッドランドスクエアシネマなど。公開中)

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