<大波小波> 現代短歌の口語と文語

2020年10月16日 16時00分 (10月16日 16時00分更新) 会員限定
 現代短歌は、口語が極点に達し、文語の新しい流れが見えて来たようだ。
 まず、口語短歌の極とも言えるような歌集が、榊原紘(ひろ)の第一歌集『悪友』(書肆侃侃房(しょしかんかんぼう))であろう。
 <そのときはきみだけに歩かせるからいつも心にある獣道>
 <楽になってほしいだなんて 憎しみの眼窩に嵌まる月をください> 榊原紘
 榊原は笹井宏之賞受賞、歌壇賞次席。日常の言葉を超えた詩的角度を持つ言葉が、この世に対する憎悪の中で静かに爆発している。
 一方で文語の新星、歌壇賞受賞者川野芽生(めぐみ)の第一歌集、『Lilith(リリス)』(書肆侃侃房)が脚光を浴びている。
 <思惟をことばにするかなしみの水草をみづよりひとつかみ引きいだす>
 <詩はあなたを花にたぐへて摘みにくる 野を這ふはくらき落陽の指> 川野芽生
 端正な文語で独特の純粋な形而上学が歌われる。ここにもこの世に対する呪詛(じゅそ)は紛れもない。硬質な美意識は猥雑(わいざつ)な時代への告発でもあるのだ。
 これらを見ると、現代短歌の口語と文語は必ずしも相反しない。深く絡み合いつつ、この苦しい日本の現実を離れて彼方(かなた)へと昇りつめて行くよう...

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