(60)「治療の目的」 医療の進歩 願いこめて

2020年10月13日 05時00分 (10月13日 13時57分更新)
 TS−1という抗がん剤を飲み始めました。四週間飲んで二週間休むのが一クールで、今は二クール目になります。

久しぶりの講演。抗がん剤治療中も活動できる体に感謝=愛知県春日井市で


 この抗がん剤は、私のような頭頸(とうけい)部がんだけでなく、胃がん、膵(すい)がん、胆道がん、非小細胞肺がん、結腸・直腸がんなど幅広いがんに適用されており、ジェネリック(後発医薬品)もあるお薬です。つまりは安全性が高くて効果が見込まれ、安く治療ができるという優秀なお薬という印象を持っています。私が信頼している先輩患者も「私も以前飲んでいたわよ」とおっしゃっていたので、治療の選択肢には常に入っていました。
 ただ「最後の切り札」として取っておいた治療でもありました。治療法のない希少がんなので、残念ですが寿命を延ばすほどの効果がある抗がん剤は、まだありません。腫瘍を小さくすることはなく、大きくならないように進行を遅らせる程度です。でもこれが完治が見込めない私にとっては、最良の治療です。いつか、効果の見込めるお薬や治療法が現れるまで、なんとか現状維持したい。症状はなくても肺に転移した腫瘍は大きくなっているし、またどこかに転移する可能性もある。体力がある今のうちに、できる手は打っておきたいし、なにより私のこの治療が症例として今後の腺様嚢胞(のうほう)がんの治療に役立てばいいと思っています。
 治療の目的がはっきりしているので、今回の抗がん剤にも不安は感じず、さほど悩みはしませんでした。副作用は、やってみないとわかりませんが、吐き気は制吐剤で抑えることができているし、倦怠(けんたい)感はありますが、きっとお薬を飲んでいなくても「だるいなぁ」と思う日もあるだろうし。今のところ、生活に支障がある副作用は現れていません。
 毎日三食しっかり食べて、仕事も遊びも一生懸命楽しむように過ごしています。先週は、久しぶりに対面での講演の機会をいただきました。舌はないけどカラオケ好きだと話したら「何か歌って」とリクエストされ「いいんですか。本当に歌っちゃうタイプですよ」と、「上を向いて歩こう」を披露しました。
 気持ちが安定しているおかげか、白血球やヘモグロビンの減少などの副作用もなく、無事に二クール目を始めることができました。丈夫な体でよかったと思います。がんだけど。
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 あらい・りな 1974年生まれ。岐阜県在住。2015年に腺様嚢胞がん(ACC)で舌を切除。闘病とリハビリを続けている。

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