なぜ正代の相撲が変わったのか…気付いたが強くしたのは俺。自慢?まあいいか。本当だもの【北の富士コラム】

2020年9月28日 11時46分

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初優勝を決め、賜杯を手に笑顔を見せる正代

初優勝を決め、賜杯を手に笑顔を見せる正代

  • 初優勝を決め、賜杯を手に笑顔を見せる正代
◇27日 大相撲秋場所千秋楽(東京・両国国技館)
 優勝の懸かった正代と、あわよくば決定戦に持ち込みたい翔猿。ポーカーフェースの正代の表情も、さすがに緊張感がありありである。一方の翔猿は闘志満々、やる気十分で、体では負けているが気迫では一歩も引かない。先にも書いたように、正代は一番嫌な相手と戦うことになったようだ。とにかく神経を使う相手である。おそらく、仕切り中も正代の胸中は複雑だったと思う。
 今場所、威力を発揮しているかち上げ気味の体当たりも相手が大きいからできること。小さな相手に思い切り当たるのは至難の業である。
 私は、立ち合いによく見ていくことが安全だとみていた。一応、立ち合いの変化も考えられるからである。事実、立ち合いは相手の動きを見て立った。ここまでは正代の作戦通りだった。しかし、ここから相撲が急展開する。
 立ち合いさえ止めれば差しに来るか、引きに来るかと思っていた翔猿が猛然と、突きと押しで攻めてきたではないか。慌てたのは正代。思いもしなかった反撃に俵を伝って残すのが精いっぱい。体がすっかり伸び上がり、絶体絶命である。私は、正代もこれまでと思ったものだ。
 しかし、正代は諦めなかった。土俵を割るかに見えた瞬間、引っ張り込んでいた右で必死に突き落とすと、翔猿がばったりと手を着いたではないか。九分九厘、負けを覚悟しながらも残った1厘で奇跡的な逆転勝ちを収めた。喜んで詰めを誤った、と敗因を述べていた翔猿。全くその通りではあるが、返すがえすも残念無念の勝負であった。
 誠に薄氷を踏むような相撲ではあったが、正代のこの一番に懸けた執念が、最後に物を言ったのかもしれない。たかが1勝と言うなかれ。この一番が優勝と大関昇進も呼び込んだのである。
 今場所の混戦は誰もが予想はしていたが、大方は朝乃山の呼び声が高かった。私も、確か4番手か5番手あたりと踏んでいたのだが、見事に裏をかかれてしまった。これほどまでに正代の成長は予測していなかったので、2敗でトップに並ぶまでは、どうせ崩れるだろうと高をくくっていたのが正直なところである。
 どうして正代の相撲が変わったのか皆さんは不思議がるが、私はあごさえ引けば正代の持つ全ての欠点が解消されると分かっていました。入門当時から、顔の上がる癖さえ直せば良くなるのに、と思っていましたが、本人も周りも直す意欲が見られないので、半分は諦めていたわけです。
 それでも、素質というものは恐ろしいものです。どなたかのアドバイスでもあったのかもしれませんが、胸を出す、上体が起きる、顔が天井を向く、足が出ない…。それらの欠点が直ってきました。そして、今年に入ると成績が良くなってきて本日を迎えたのです。
 私もテレビや、この紙面でも口を酸っぱくするほど「あごを引け」と言い続けました。いくら言っても直らない正代を見て「こいつばかか」と何度も思ったものです。私は今の取り口でも十分に良いと思いますが、がっぷり右四つでも十分に戦えます。もっと右四つを勉強してもらいたいと思っています。
 先ほどから電話がうるさくかかってきます。どうせ熊本の友達です。うるさいので出ません。
 それでは皆さん、今場所は正代と翔猿、隆の勝、若隆景の活躍がなければ、どうしようもない場所でした。申し訳ありません。せっかくの千秋楽というのに、今から寂しく一人で飯を食べます。面倒だからラーメンでもいいかな。それから、天むすの差し入れもありました。また来場所、さようなら。
 今、気が付いたのですが、正代を強くしたのは俺。少し自慢に聞こえませんか?まあ、いいか。本当だもの。
(元横綱)
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