【宝生流シテ方・佐野玄宜の能楽談儀】(9)「土蜘」 糸投げる壮観な演出

2020年9月19日 05時00分 (9月19日 09時58分更新)
独武者たちに向かって蜘蛛の糸を投げつける蜘蛛の精=2017年11月、石川県立能楽堂で

独武者たちに向かって蜘蛛の糸を投げつける蜘蛛の精=2017年11月、石川県立能楽堂で

  • 独武者たちに向かって蜘蛛の糸を投げつける蜘蛛の精=2017年11月、石川県立能楽堂で
 壁に張り付き、蜘蛛(くも)の糸を自在に操るスパイダーマンというアメリカのスーパーヒーローがいますが、能にもスパイダーマンを彷彿(ほうふつ)とさせる「土蜘(つちぐも)」というスペクタクルな演目があります。
 源頼光が病気で寝込んでいると、怪しい僧が現れます。僧が蜘蛛の精であるとほのめかすと、頼光は病の元凶が蜘蛛の仕業と知り、枕元の名刀・膝丸を抜いて戦いますが、僧は蜘蛛の糸を投げかけてそのまま姿を消します。騒ぎを聞いて家臣の独武者(ひとりむしゃ)が駆け付けると、頼光はことの顛末(てんまつ)を語り、膝丸を蜘蛛切と名付けます。独武者は、逃げた後に血が流れた跡があるのを見つけ、それを頼りに蜘蛛の棲家(すみか)へたどり着き、これを退治して帰るのでした。
 源頼光は平安中期の武将で、酒呑童子(しゅてんどうじ)など鬼退治で有名ですね。渡辺綱(わたなべのつな)をはじめ四天王と呼ばれる優秀な家臣を持つことでも知られます。
 蜘蛛の精はスパイダーマンさながら蜘蛛の糸を投げつけて戦います。この糸は、細い和紙の先に鉛がついていて、シテが放つと美しい放物線を描いて千筋に広がります。ところがこれが水物で、きれいに広がらなかったり、方向がずれてしまったりと、なかなか思い通りにいかないのが難しいところです。うまく広がるとお客さんから「おおっ」と歓声が上がることも。こうした曲も珍しいですね。蜘蛛の糸を投げる演出は、幕末から明治初期にかけて考案されたものと言われています。
 実はこの蜘蛛の糸も、作る職人さんが減って、年々値上がりし、なかなか気軽に何発も練習できない状況になってきています。我々演者もそうですが、舞台を支える装束や能面、道具を作る職人の後継者問題も、今後の大きな課題です。 (さの・げんき)
 ◇金沢能楽会定例能代替公演兼ファン感謝祭(9月26日午後5時から石川県立能楽堂)
 ▽能「小袖曽我」(十郎・藪克徳、五郎・佐野弘宜)▽連吟「嵐山」 ▽仕舞「田村クセ」(田屋邦夫)、「東北キリ」(松本博)、「花月キリ」(島村明宏)▽狂言「口真似」(太郎冠者・炭光太郎)▽祝言「金札」(シテ福岡聡子)
 ◇金沢能楽会10月定例能(10月4日、午後1時、同能楽堂)
 ▽能「梅枝」(シテ広島克栄)▽連吟「岩船」▽狂言「謀生種」(甥 若生敏郎)▽能「土蜘」(シテ佐野弘宜)▽入場料=前売り一般2500円(当日3000円)、若者割(三十歳未満、当日のみ)1000円、中学生以下無料
 (問)金沢能楽会076(255)0075
※タイトルは、世阿弥の話を聞き書きした「申楽(さるがく)談儀」になぞらえて。毎月第3土曜日に掲載。

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