佃典彦さんに聞く 「半沢直樹」撮影秘話

2020年9月18日 13時20分 (9月18日 17時33分更新)
名古屋を拠点に活動する劇作家・演出家の佃典彦

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  • 「半沢直樹」の撮影を振り返る佃典彦
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 人気のテレビドラマ「半沢直樹」に曽根崎雄也役で出演し、話題となった名古屋在住の劇作家・演出家の佃典彦。撮影秘話などを語ってもらった。(聞き手・小原健太)
―出演の反響は。
 全然連絡を取っていなかった小学校の同級生とかからも連絡が来た。とにかくたくさんメールが来て、「本当にみんな見ているんだな」と思いました。僕は半沢に出ることを、撮影で舞台のスケジュールに影響がありそうな人たちにしか伝えてなかったんですよ。それこそ自分の劇団員にも。それでこれですからね。今まで名古屋のテレビ局が作るドラマにはちょこちょこ出たことがあったけど、こんなことはなかった。半沢直樹はすごい、視聴率20%超えは違うなぁと思いましたね。
―オファーの経緯を詳しく。
 昨年12月ごろにスマートフォンに知らない番号から着信がありました。折り返したら半沢直樹のプロデューサーの方で。伊与田さんとは違う方でしたが「佃さんにお願いしたいことがあります」と。初めは脚本(の依頼)だと思ったんです。いやいや、半沢直樹なんか書けないよって。そしたら出演だっていうから少しほっとしたんです。でも撮影のスケジュールが合わなかったんです、作・演出の舞台があって。それで1度断ったんですが、コロナの影響で世の中が騒がしくなり、舞台も延期が決まったところで、もう1度電話があって。それで出演を引き受けました。
―曽根崎役について。
 撮影スケジュールが決まってから知らされまして。それで原作を買って読みました。3シーンくらい出る、初老の管理人くらいの役だろうと思っていたら、1冊の3分の2くらいずーっと出ている役じゃないですか。ちょっとこれは待て、と思って(笑)。しかも原作の曽根崎は身長190センチ、体重100キロ、元相撲部っていう。銀行の審査部でちょっと危ない人たちともやり合わなきゃいけない、体格を生かしてあらゆる案件を突破してきた男といった感じ。全然僕と違う。大丈夫なのと思って。ドキドキしながら台本を待っていました。
―撮影現場はどうでしたか。
 日本劇作家協会の知り合い、土田英生さんが先に出演していたので電話して事前に現場のことを聞きました。「半沢の現場は普通のドラマと違って特殊なんです」と。(台本にいろいろなバージョンがあり)当日朝にも変わっている。それから普通のドラマってカット割りをしながらいろいろな角度で撮り進めて、それをつないで・・・ってするんですけど、半沢では1シーンまるまる通すんです。それからカメラ位置を変えて、また通して・・・とずーっと通しなんですよ。かんだり、せりふが飛んだりしても、やり直しが許されない。監督が止めるまでは役者がなんとかして続けなければならない。これってまるで舞台の本番と同じだなと思いました。
 福沢克雄監督が怖い、っていうのも聞いていたんですが、衣装合わせの時に福沢監督からは「うちの現場は、とにかくせりふ早口で、的確に。それがまず最低限。よろしくお願いします」って言われて。早口で的確、苦手だなぁと思いながら撮影入りしました。最初に撮ったのは第5話、曽根崎が半沢のデスクに腰掛け、やってきた半沢に悪態をつくシーンです。若い役者がうまくせりふを言えなくて、福沢監督は厳しく演出をつけていました。僕は隣で怖い怖い怖い、土田君の言ってた通りだ、こんなの絶対間違えられないよと思って。なのにその後本番に入ったら、いきなり「半沢次長」って言うところを「半沢常務」と言ってしまった。後のせりふもしどろもどろになりながらその回を通して、僕も怒られるんじゃないかなと思いましたが、なんとか怒られずに済みました。とんでもないところに来てしまった、とそれから撮影の1カ月間、半沢以外のことが手に付かない状態でした。暇があればぶつぶつせりふを言って。久しぶりに緊張しました。
―第6話の土下座シーンの放送後、香川照之さんがツイッターで「佃さんは完璧だった」と書き込みました。
 そりゃそうでしょう、北大路欣也さんを前にして間違える勇気なんてありませんよ(笑)。あのシーンは午前8時半から午後5時半まで、45分の昼休憩はありましたがぶっ通しの撮影でした。何がすごいって、たとえば北大路さんだけを撮るシーンで、堺さんも香川さんも段田さんも全く写らない時。それでもみんな本意気(全力)で芝居しますからね。普通の現場の一人を撮るカットだったら、視線の先に相手役がいないこともあるくらいです。それが皆いちいち本意気で通しますから、(オンエアでは)その緊張感とかが画面からあふれている感じがします。出演者が歌舞伎俳優さんや舞台の出身の人で固められていますが、お客さんの前で芝居をやり続けていることで相当鍛えられる。そうじゃないとこれはやれないぞ、という感じがしました。
―全力で芝居をする緊張感の中で生まれるものがある。
 土下座シーンは、香川さんに「君が謝るのは我々にじゃない。頭取に深くふかーく謝罪すべきだと私は思うがね」と言われ、前を見るとバーンと北大路さんがいるわけですよ。もちろんト書きには土下座と書いてあるんですけど、それはもう土下座するしかないなという気になってきますよね。7回、8回とシーンを通していくうちに、やはり役に同化していくというのはあります。だから何度も通すんだと思います。土下座からの後ずさりも監督の指示があったわけじゃなく、自然な流れでやりました。
―これで終わりかと思ったら、第7話でもう1度出てきましたね。
 料亭で堺さんと香川さんに挟まれて「さあさあさあさあ」と詰め寄られるシーンですね。あの場面はとにかく楽しかった。曽根崎は土下座して落ちぶれた後なので、僕はいつも通り猫背でしょんぼりしていれば良かったですから。台本では香川さん1人に責め立てられてることになっていたんですが、堺さんは「いいな、僕もやりたいな」と言っていて。何回かやるうちに堺さんも入ってきました。二人はすでにお互いのやりたいことを何となく感じ取れるようになっていて。特別稽古して合わせたわけでもないのに、いきなりやれちゃうところがすごいですね。
―撮影で苦労したことは。
 僕名古屋弁がきついんで、その矯正です。毎日撮影が終わった後、午後11時くらいから翌午前2時くらいまで、うちの劇団にいる千葉出身の子に電話でせりふをしゃべって、イントネーションを直してもらいました。
―他に印象的だったことはありますか。

 帝国航空の社長を演じている木場勝己さんと初めて共演できたことです。大学生の時、(木場さんが旗揚げした)秘法零番館に「劇団員は募集していますか」と電話したことがあります。そのとき電話に出てくれたのが木場さんで「僕、大ファンなんです」と伝えました。稽古場見学にも行って、その後飲みにも行ったんですけど、ちょっと覚えていてくれたみたいです。オンエアではカットされてしまいましたが、1シーンちゃんと一緒にお芝居できて、それがうれしかったなあ。
―これからの活動について。
 今回で、頑張れば標準語で早口もできるんだなと分かりました。今までもそうでしたが、オファーが来て、スケジュールが合えば、いろいろとやりたい。とりあえず半沢直樹については、一視聴者として、これから誰が土下座をするのか楽しみに見ようと思います。

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