本文へ移動

考えるリニア着工 南アルプスに生きる(下) 譲れない故郷の存続

2020年9月12日 05時00分 (12月22日 17時23分更新)
諏訪神社の例祭で奥の本殿から拝殿に運び込まれる神輿=静岡市葵区田代で

諏訪神社の例祭で奥の本殿から拝殿に運び込まれる神輿=静岡市葵区田代で

 横笛と太鼓の音に合わせ、白装束を身にまとった男たちの手による神輿(みこし)が拝殿に運ばれてきた。残暑厳しい八月下旬、静岡市井川地区の諏訪神社で四年に一度の例大祭が営まれた。コロナ禍で規模は縮小した。
 諏訪大社(長野県諏訪市)の分社で、鎌倉時代に創建された。江戸時代に始まった例大祭は「ヤマメ祭り」とも呼ばれる。近くの沢で釣ったヤマメを塩漬けにしてアワを詰めた「ヤマメずし」を奉納し、豊作、豊漁、村の安泰を祈願する。
 神輿は地元の男が代々、当番制で担ぐ。過疎・高齢化で、伝統は風前のともしびにある。
 井川ダムが建設された一九五〇年代、地区には建設作業員が住み、村の人口はピークを迎えた。六〇(昭和三十五)年度には千三百世帯、八千二百三十六人を数えたが、徐々にダムの仕事は減り、過疎化も進む。この六十年で人口は二十分の一近くに減り、高齢化率は60%に達する。
 この夏、諏訪神社の滝浪宏文宮司(49)が「本当にありがたいですよ」と期待する新顔が、神輿の担ぎ手に加わった。
 二年前から、リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事に向け、宿舎や事務所の建設などが始まった。新たな担ぎ手は、その関連事業者で、建設機械・重機レンタル「アクティオ」(東京) の社員たちだ。
 社員たちは地域に溶け込もうと、地区の祭りやイベントには欠かさず顔を出し、草刈りやごみ拾いなども引き受けている。その一人、増田義之さん(67)は「ここを開発させてもらっているからこそ、村のために役に立ちたい」と語る。
 「毎年二十人死ねば、二十年でこの村はなくなる。危機感しかない」。そう語る井川森林組合の森竹史郎組合長(69)は、リニアが過疎化の歯止めにつながると期待する。
 組合はリニア工事が始まれば、JR東海に工事用の砂利を売却したり、土地を売却したりした収益で、地域活性化策を模索する。「Uターンや新たな移住者も呼び込みたい」
 二〇一四年から続く県とJR東海の協議は水や生態系の保全を巡り、膠着(こうちゃく)している。「『もうじき着工か』と待ち続けているが、飽きてしまった」。森竹組合長はつぶやく。
 中下流域の住民が水の保全に不安を持つ気持ちは理解できる。沢枯れは上流部でも困る。だが、何にも増して譲れないことはただ一つ。二千年前から先祖が生活を営んできた地区を自分たちの代で消滅させるわけにはいかない。
  (広田和也が担当しました)

関連キーワード

PR情報