大草山の傘狐 「傘に入れて」頼むも知らぬふり

2020年9月12日 05時00分 (9月12日 05時00分更新)
「雨の日に傘狐が出る」との伝説がある大草山=舘山寺温泉街から撮影

「雨の日に傘狐が出る」との伝説がある大草山=舘山寺温泉街から撮影

  • 「雨の日に傘狐が出る」との伝説がある大草山=舘山寺温泉街から撮影
 昔、昔の話です。
 呉松(今の浜松市西区呉松町)の村に住む若い男が、浜名湖のほとりを歩いて気賀(今の浜松市北区細江町気賀)に使いに行った時のことです。
 用事が終わり、大草山(呉松町)の麓に着いた頃には、日が暮れて暗くなってきました。
 「急がないと、家に着く頃には真っ暗だ」
 そう思った直後、ポツリポツリと雨が降りだしてきました。
 「いよいよ困った。ぬれて歩くには先が長すぎる」
 傘を持っていない若い男は、ため息をつきながら黒い雲が覆う空を仰ぎました。
 とりあえず雨宿りをしようと辺りを見回しても、一面野原で、家はおろか大きな木さえありません。雨の勢いは増すばかりで、全身ずぶぬれになってしまいました。
 困り果てた若い男が先を急ぐと、道の先に傘を差して歩く人が見えました。
 「ありがたい。雨の勢いが収まるまで、ほんの少しの間でもいいので、傘に入れてもらおう」
 若い男は、傘を差している人に駆け寄ると、「申し訳ありません。少しの間だけでいいので、傘に入れてくれませんか」と頼みました。
 傘を差した人は若い男に気付かなかったのか、すうっと前に行き、そのまま歩き続けました。
 「すみません。ご迷惑かと思いますが、傘に入れてもらえないでしょうか」
 若い男が小走りで追い掛けながらもう一度声を掛けると、傘を差した人が一瞬振り返ったように見えました。何と美しい女の人でした。
 「ひどい雨の間だけでもお願いします」
 若い男は改めて頼みました。
 すると、どうしたことでしょう。傘を差した人はまたすっと前に行ってしまうのです。こんなことを何度も繰り返すうちに、傘を差した人はどこかに消えてしまいました。

◆古老が一言「狐にだまされたんだ」

 ふと気付くと小雨になり、家の明かりがいくつか見えてきました。
 「なあんだ、あれは自分の家じゃないか」
 家に帰った後、人に会うたびに傘を差した人のことを話しましたが、誰もが不思議がるばかりです。若い男に向かって古老が一言つぶやきました。
 「大草山の麓での出来事か。山にすんでいる狐にだまされたんだ」

<もっと知りたい人へ>
参考文献:「遠州伝説集」御手洗清


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