本文へ移動

考えるリニア着工 南アルプスに生きる(中) 源流の沢消える魚影

2020年9月11日 05時00分 (12月22日 17時23分更新)
ヤマトイワナの激減ぶりを語る岡本初生さん=静岡市葵区井川で

ヤマトイワナの激減ぶりを語る岡本初生さん=静岡市葵区井川で

  • ヤマトイワナの激減ぶりを語る岡本初生さん=静岡市葵区井川で
  • 湖と山に囲まれた井川地区=静岡市葵区井川で
 南アルプスの源流に生息する絶滅危惧種、ヤマトイワナは大井川のシンボルとされる。山間部に位置する静岡市井川地区では古くからタンパク源としても重宝されてきた。
 県レッドデータブックなどによると、イワナの日本固有亜種で、夏の水温が一五度以下の冷涼な河川だけに生息する。大井川の純粋種にはほかのイワナに共通する白い斑点がない。
 井川で生まれ育った岡本初生さん(83)は生態の研究を続ける。岡本さんいわく、主食の昆虫や、サンショウウオを好んで食べるという。「広葉樹から落ちてくる虫がないとヤマトイワナは生きていけない。虫がつかない人工林の下では育たない」と語る。
 岡本さんが、木材業の父親に連れられ、初めて大井川の最上流部に向かったのは中学二年の時。当時はまともな登山道もなかった。「水が深い沢では、父親におぶられて渡ったり。結局三日かかったよ」
 たどり着いた先で見たのは、沢全体に山ほどいるヤマトイワナ。渓流釣りが趣味になり、何度も上流部を訪ねた。釣っては塩焼きにして食べた。
 一九六七(昭和四十二)年に旧井川村役場に就職し、森林管理や熊の捕獲、時には山岳遭難の捜索隊に加わった。リニア中央新幹線の工事現場に通じる林道東俣線の整備にも関わり、退職後はエコツーリズムのガイドを務めた。「聖岳や赤石岳、間ノ岳。すべての山を歩いたよ」。南アとともに生きてきた。
 ヤマトイワナの激減に気付いたのは二〇〇五年ころ。山小屋が整備され、釣り人が増え、乱獲は進んだ。河川の汚染や水力発電による流量減少、さらには釣り人が放流したニッコウイワナとの交雑が純粋種の減少に輪を掛けた。
 JR東海の試算によると、リニア工事によってトンネル近くの地下水位は三百メートル超下がる。専門家は、上流の沢は枯れ、ヤマトイワナがすむ場所はなくなってしまうと指摘する。
 南アを貫通するリニアによって地元が利することはないと思っていた。しかし、旧井川村時代から地元の悲願だった静岡市中心部につながるトンネルが、リニアの代償として、JR東海の全額(百四十億円)負担で整備される事実がある。
 三年前、腹部に動脈瘤(りゅう)が見つかった。昨年春に上流部を目指したが、体調悪化で途中で断念した。もう二度と上流部には行けないかもしれない。
 「今からでもヤマトイワナに触って、匂いを嗅いで、自分の目で確認したい。でも、もう若くない。もう遅いんだ」。父と見た光景がまぶたに浮かぶ。 (広田和也)

関連キーワード

PR情報