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ようこそ男の隠れ家へ 岐阜県中津川市

2025年6月7日 05時05分

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20年かけて作った別荘の前に立つ辻本正二さん

20年かけて作った別荘の前に立つ辻本正二さん

  • 20年かけて作った別荘の前に立つ辻本正二さん
  • 別荘で昼食後の歓談をする皆さん
  • 付知川の流れから20センチサイズを引き抜く横井克己さん=岐阜県中津川市で
  • 付知川で31匹を上げた横井さん
  • 朴葉も川も夏の日差しを浴びて輝く
アユロード 第2章 <1>
 約15年の時を経てアユロードが第2章として、岐阜県中津川市を流れる付知川(恵那漁協管内)から再スタート。夏になると人々が集う「男の隠れ家」にお邪魔した。最高のロケーションで、釣って食べて輪になって、一瞬の夏に溶け込む。男たちの宴は10月中旬まで続く。 (1日取材・柳沢研二)
 まんまる顔の横井克己さん(62)=愛知県春日井市=が「ようこそ男の隠れ家へ」と笑顔で出迎えてくれた。付知川ほとりにある30坪ほどの別荘が夏の「ねぐら」となる。オーナーの辻本正二さん(79)とは旧知の仲。週末になると仲間とここで過ごすという。
 杉立というポイント周辺にあり、両岸は山、上下を大きな淵に挟まれているためになかなか近づくことができない。いつも目の前を流れる数百メートルの瀬を仲良く釣る。横井さんは長さ20メートルほどの棚に入った。
 1メートルほどの深さで流れは速いもののノーマル仕掛け。オトリを横スライドさせて対岸近くへゆっくり滑り込ませると、数分で18センチがヒットした。解禁から1週間後とあって追い気のあるアユは少ないものの魚影は濃い。
 「アユの一団になじませ、流れが変化する場所で横の動きがあった場合に掛かるね」と横井さん。繊細な糸の張り加減でオトリを操作し、幾筋ものラインを探る神経戦が続く。2時間で20匹近くを上げた。
 横井さんの傍らで私とともにずっと30歳台の男性が熱い視線を送っていた。なかなか釣果が出ずに悩んでいるようだった。「横井さんが、なぜそんなに釣れるのか、まだ分かりません。何か隠しているんじゃないか」とつぶやいた。
 時折、私たちに話しかけられても横井さんのペースは乱れない。派手ではないが、しっかりとした柱があるからだろう。いつの間にか4人が後ろに座り込んで観察していた。オトリの泳ぐ速度を調整する糸の張り加減が絶妙だ。さらにオトリ交換から送り込みといった一連の「所作」によどみはない。「慌てなくていいんです」。そう、アユの夏をゆっくりとかみしめればいいのだ。
 昼になると横井さんたちは川岸の別荘へ。昭和の居酒屋を思わせる居間で、10人がテーブルを囲んだ。辻本さんらがそばとナスの天ぷらを振る舞ってくれ、ノンアルコールビールで乾杯。釣り談議や近況などで2時間近く盛り上がる。笑いが絶えない話題の結論は「好きなことをやって死にたい」だった。
 「20年かけた手作りの別荘にたくさんの人が輪になって、一つの話題で盛り上がってくれる。これが大きな安らぎです」と辻本さん。慈愛に満ちた穏やかな笑みを浮かべていた。
 横には谷川が流れ、もうすぐホタルが舞う。畑にはナスやピーマンなどの夏野菜が植えられて収穫の時を待つ。川を望める丘には屋根付きの休憩所まである。ベンチに腰かけると、吹き抜ける川風が心地よい。大きく広がった朴葉が降り注ぐ初夏の日差しを浴び揺れている。「釣りだけしているのはもったいない」と誰かが独り言。
 眼下には「青川」と呼ばれる流れがきらめく。アユに磨かれたせいなのか。帯状となって浮かび上がった青き筋がまぶしい。まるで夢を見ているかのようだった。眼下の年配男性が良型に竿をしぼって転びそうになったが無事取り込んだ。上流の淵に目をやると6畳分ほどのアユの群れがゆらめく。
 昼から1時間で20センチサイズを追加して11~20センチ31匹を上げると横井さんは竿を納めた。ここでは数時間しか釣りをしないという。次は悩んでいた男性に付きっきりで指導すると良型を連発させている。横井さんは「仲間に教えたり、わいわいやったりが楽しい。辻本さんや地元の人に受け入れてもらって楽しませてもらっていることに感謝です」としみじみ語った。
 川から上がって着替えを済ませていると、地元の若者が戻ってきたが元気がない。カタログから飛び出てきたような上下おそろいのウエアで友釣り2回目という。「ゼロでした」と言葉少なにうなだれている。
 みんなが取り囲んで、友釣りのイロハなどいろいろなアドバイス。横井さんら全員が「仕掛けから面倒みるから、またおいでよ」と慰めていた。まだ放心状態だったが、「はい、ありがとうございます」と深々と頭を下げた。
 若者は早苗の揺れる田んぼの小道をうなだれながら帰っていった。その後ろ姿を見ながら横井さんは「男の隠れ家に新しい仲間が増えたね」とつぶやいた。青き川の夏は始まったばかりだ。
 横井さんが付知川の基本的な攻略方法を教えてくれた。放流魚は県魚苗センターの海産タイプの人工産が主体で4650キロ、湖産は700キロ入っている。梅雨明けにはセンター産400キロ、さらに阿木川遡上(そじょう)魚も入る。
 初期は湖産を釣りきって、まだ群れ気味の海産タイプをいかに釣るかが鍵となる。針選びは6・5号でスタートして、アタリが止まったら7・5、7号といった具合に替えていた。初期はアユの皮が軟らかいので、バレが多い。掛かるとしっかりと合わせを入れ、針を食い込ませてから取り込んでいた。
 初期の掛かりアユは天然といえども弱くて馬力がない。「すぐにハナカンを通すのではなく、玉網の中で泳がせて落ち着かせると元気度が違いますよ。一呼吸置くのが重要」と話していた。
 魚の反応がなくなったとき、横井さんは養殖オトリに交換した。引き舟には元気な天然がいっぱいいるのになぜ? 養殖を放つとアユの一団がオトリの周辺に集まりだして連発といったシーンがあった。「養殖オトリがアユの群れを呼び込むんですよ。理由はわかりませんがね」と横井さん。これも初期の鉄則なのだろう。
【横井さんのタックル】
竿・早瀬9メートル、水中糸・複合メタル0・05号、下付け糸ナイロン0・4号30センチ、中ハリス・フロロ1号、掛け針・秀尖(しゅうと)、谺(こだま)6・5、7、7・5号
【取材余話】
 横井さんは手弁当で無料の仕掛け教室をフィッシング遊一宮店で続けているのが縁で取材させていただいた。友釣り人口を地道に増やしていきたいという熱意を感じた。
 前回のアユロードにたびたび登場し、支えてくれた故奥村和彦さんとも友人だったのにびっくりした。誰よりも再スタートを喜んでくれたであろう奥村さんは馬瀬川で帰らぬ人となった。白鳥さん、森山さんらも故人となられた。
 15年前「いつか再開してください」と長いお手紙をくれた名古屋市北区と岐阜県多治見市の男性にも届くだろうか。
 あの頃を思い出しながら、アユの夏を追いかけて走ろう。

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