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考えるリニア着工 なぜ決まったCルート(下)

2020年8月8日 05時00分 (12月27日 17時21分更新)
「JR東海はテレワーク時代を盛り込んで大幅に計画を見直さなければいけない」と話す橋山禮治郎アラバマ大名誉教授=東京都八王子市で

「JR東海はテレワーク時代を盛り込んで大幅に計画を見直さなければいけない」と話す橋山禮治郎アラバマ大名誉教授=東京都八王子市で

◆単体の収支見通しなく

 「当社の経営環境は会社発足以来の厳しい局面を迎えております」。五月十五日、名古屋市であった定例会見で、JR東海の金子慎社長は深刻な経営状況を口にした。新型コロナウイルスの感染拡大はその後も収束せず、四〜六月の売り上げは前年同期の三割弱にとどまり、四半期決算で初となる営業赤字を記録した。
 リニア中央新幹線は「(単体で)ペイしない。採算は取れない」(山田佳臣元JR東海社長)とされる。新型コロナを受け、計画の再考を求める声が上がっている。
 「大阪開業までに人口は減るのに利用者は大幅に増えるという十年前のあり得ない試算に基づいた計画がリニア。コロナ禍で需要を予測する基礎条件が激変した今、計画を見直そうとしない経営者は経営者ではない」。米アラバマ大の橋山禮治郎名誉教授(80)=政策評価=はそう語る。
 JRは「人口減少社会に入っても、コロナ禍まで新幹線の利用者は増加を続けていた」と反論するが、橋山教授は「増加要因は訪日外国人の激増という偶発的な結果論。路線が新設されることによる需要増とは別次元の話」と切り返す。
 橋山教授はリニアの計画認可当時、大阪まで延伸後、東海道新幹線からリニアに乗客の六割前後が移らないとリニアは不採算と試算したが、大半が地中を走り車窓は楽しめず、割高の料金などを勘案し、最大五割程度と見積もる。
 リニアの収益性や計画を後押しする政府の姿勢は、安倍晋三首相が総建設費の三分の一に当たる三兆円の財政投融資の投入を打ち出した一六年、衆院で追及された。リニア単体の収支はおろか、JRの財政諸表さえ見ずに財投を決めた財政制度等審議会で、野党側は「何を審議したのか」とただした。整備計画を議論し、Cルートを選んだ交通政策審議会を引き合いに「『事業の収益性は確実』と答申されている」と説明したのは、後に森友学園問題で決裁文書改ざんを主導した佐川宣寿理財局長(当時)だった。
 財投の投入例では、一九九七年に開業した東京湾横断道路(アクアライン)が初年度から予想の四割しか利用されず、大赤字に陥った。JRは「リニア単体の収支は試算していない」との立場を貫いている。本紙は改めてJRに求めたが、「リニアと東海道新幹線は代替補完の関係にあるため、一方の単独収支に着目することは意味がない」として拒まれた。
 JRは収益の約七割を東海道新幹線が支え、その新幹線客の約七割はビジネス需要が占める。本年度、リニア工事を含め過去最大の七千百八十億円を投じる一方、コロナ禍で新幹線需要が落ち込み、財務指標が悪化したとして、米格付け会社S&PはJR東海の長期会社格付けを一段階引き下げた。
 橋山教授はテレワークの定着で、リニアの不採算性は高まっていると指摘する。二七年の開業延期が確実視される今こそ、一度立ち止まり、国民や国会を巻き込んで事業を再検討すべきだと強調し、「経済性や環境影響を無視して、このまま進めばリニアは陸のコンコルドになる」と語る。
 事業の継続が損失の拡大につながると気付いても、過去の労力や投資、時間を惜しんで立ち止まれない状態を、英仏が共同開発し、商業的に失敗した超音速旅客機の名にちなみ、コンコルド効果と呼ぶ。
 (五十幡将之が担当しました)

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