かわぐちかいじさん長男の能楽師・川口晃平、VR能「攻殻機動隊」に手応え

2020年8月8日 05時00分

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VR能の魅力を語る川口晃平(片田早紀撮影)

VR能の魅力を語る川口晃平(片田早紀撮影)

  • VR能の魅力を語る川口晃平(片田早紀撮影)
  • 3月に東京都内でプレ上演されたVR能「攻殻機動隊」(神代雅夫撮影)
  • 「VR能 攻殻機動隊」のポスタービジュアル
  • 「ここ数カ月で数十年分の変化が起きようとしている」と指摘した東大の稲見昌彦教授(片田早紀撮影)
 21日から3日間上演する新作舞台「VR能 攻殻機動隊」(東京・世田谷パブリックシアター)。コロナ禍による中止の危機を乗り越え、追加公演も決定する人気を集めている。「沈黙の艦隊」や「空母いぶき」などで有名な漫画家かわぐちかいじさんの長男で、同舞台に出演する観世流能楽師の川口晃平(44)は「能にとってコロナはチャンス。古いもののすごさや格好良さを体験してほしい」とアピールした。(関龍市朗)

コロナは危機でチャンス 生きるか死ぬかの日常で能は輝く

 能は現存する世界最古の演劇として約700年の歴史を誇る日本の伝統芸能。しかし、コロナ禍の影響は能の世界にも容赦なく及んでいる。
 「相当危機です。コロナの前からずっと危なくなっていた中で、能の周辺にいる職人の世界も滅びかけている。オヤジの漫画じゃないけど、日本人は永遠に続く平和な日常という幻想を見てましたよね。これは壊れた。生きるか死ぬかだろう、日常は。そこで能が輝く。能は応仁の乱や戦国時代とか死と隣り合わせの世界を生きてきた」
 漫画家の家に生まれながら能という異分野の道へ。原点には子どものころから感じていた思いもあった。
 「作家、編集者、いろんな怪しい人たち…周りに自分の好きなことをやっている大人しかいなかったので仲間入りしたかった。表現者になりたいと思っていて、日本の古いものがないがしろにされている時代だなと反発も感じていた。絵描きになろうと思ったが、大学のときに能を知った。師匠(五十六世梅若六郎玄祥)は同時代に一番感動させてくれる表現者だった」
 3月26日のプレ上演で、川口は「攻殻機動隊」の主人公・草薙素子に扮(ふん)して舞台に立った。伝統芸能と最新技術、SF漫画という異色の組み合わせだが、能楽師として確かな手応えを感じている。
 「能はイタコじゃないですけど死者を登場させたり、源氏物語や古事記などの登場人物を主人公にした古典文学のスピンオフだが、今回はついに未来から現代に引っぱってくる。そこが非常に面白い。VR映像も能の世界観に近い」
 「能はシンプルで抽象的で、お客さんの想像力で肉付けする。能を楽しむ時に大事なのは元の題材を皆がよく知っていることだが、日本はいま古典文学と遠くなっている。現代人はハリウッド的な世界に慣らされていて、わかりやすい筋立てや何でも説明しないと受け入れてもらえない。しかし、この漫画ならそういう柵を越えられる。『攻殻機動隊』はハリウッドでも映画化され、ヨーロッパでも大人気。世界にも持っていける」
 ▼川口晃平(かわぐち・こうへい) 1976年4月13日生まれ。東京都出身。慶応大学卒業後の2001年に五十六世梅若六郎玄祥に入門し、同年に復曲能「降魔」で初舞台。シテ方観世流能楽師として坂口貴信や谷本健吾と「三人の会」を結成するなど、現代能楽シーンをけん引する存在として活躍中。
♦攻殻機動隊 士郎正宗さんが1989年に発表したSF漫画。脳からインターネットに直接アクセスできる電脳化技術や義体(サイボーグ)化技術、人工知能(AI)などが高度に発展した世紀の日本を舞台に、サイバーテロなどの凶悪犯罪を取り締まる公安9課の活躍を描く。アニメ化や実写映画化、ゲームなど派生作品も多数。コロナ対策で注目された台湾の“IT大臣”オードリー・タン(唐鳳)もファンと公言している。

VR専門家・稲見東大教授 “現実とは”“本質とは”問う

 VR(バーチャル・リアリティー、仮想現実)の専門家として同舞台にかかわった東京大学の稲見昌彦教授は「攻殻機動隊」の大ファン。漫画に登場する「光学迷彩」という透明化技術を実現して世界を驚かせた。プレ上演でも能楽師が舞いながら消えたり現れたりする演出で観客の度肝を抜いた。
 「目の前の世界は現実か? 身体はどこにあって心はどこにあるのか? 全部があいまいになって本質を考えさせられるのが『攻殻機動隊』の魅力のひとつ。バーチャルの語源は“本質的な”という意味で、VRも日常生活にある現実感の中の本質を具現化してみせるもの。仮想現実と訳したのは実は間違いで、現実の代わりになるまがいものを作るのではない。この世とあの世をつなぐ能の世界で“本質”を感じていただきたい」
 次は「消える魔球を本当につくってみたい」と話し、人間の身体能力を超える力を身につける「超人スポーツ」の研究にも力を注ぐ。コロナ禍や情報技術(IT)の進展でスポーツや芸能の楽しみ方にも大きな変革が起きている。
 「元に戻るのではなく、今まで以上にする。最近、サッカーの無観客試合を始めたらホームとアウェーの勝率差がなくなってきたと聞いた。今までそんな実験できなかった。応援って本当に価値があったんじゃないか? バーチャルシートでスタジアムの定員以上に人を入れればビジネスになる。プレーヤーも5万人じゃなくて100万人が応援していると感じてプレーできるとスポーツも変わる。スポーツや舞台の本質的な面白さって何だったんだろう?というところから考えていくといいチャンスになる」

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