沖の瀬御殿 笑顔美しい姫、恋かなわず身投げ

2020年8月8日 05時00分 (8月8日 05時00分更新)
小千代姫のために建てられた御殿は、木の茂みの右方向の湖底に沈んだと伝わる=浜松市北区三ケ日町津々崎で

小千代姫のために建てられた御殿は、木の茂みの右方向の湖底に沈んだと伝わる=浜松市北区三ケ日町津々崎で

  • 小千代姫のために建てられた御殿は、木の茂みの右方向の湖底に沈んだと伝わる=浜松市北区三ケ日町津々崎で

◆湖岸の御殿 地震で湖底に

 昔、昔の話です。
 三河(愛知県東部)の城に、美しく物静かな小千代姫が住んでいました。
 姫は誰からも慕われ、幸せな日々を送っていました。姫の笑顔を見ていると、周りの人も心が晴れやかになりました。
 そんな姫の笑顔がいつの頃からか消え、顔色が悪くなってきました。お付きの人が姫に聞くと、体調を崩したわけではないようです。これといった理由は見当たらないのですが、食事の量も減り、日に日にやせ細ってしまいました。
 お殿様は、万が一のことを心配して有名な医者を呼び寄せました。毎日診察し、いろんな薬を試したものの一向に良くなりません。
 「病は気からと申します。お姫様をお治しするために、景色のいい場所で静養されることをお勧めします」
 お殿様は、猪鼻湖に面した津々崎(今の浜松市北区三ケ日町津々崎)にうってつけの場所を見つけ、急いで湖岸に御殿を建てました。
 お姫様は、湖に浮かぶように立つ立派な御殿で、自然を満喫した療養を始めましたが、具合はますます悪くなりました。
 「姫の立場ではかなわぬ恋と我慢していたあの方を、今は見ることもできない」
 お姫様は、城で働く身分の低い若者に思いを寄せていたのです。お姫様は城にいた時も、御殿に来てからも、誰にも打ち明けることはできませんでした。
 お姫様は、一人で部屋にこもると、会えない若者に手紙を書きました。思いをしたためた手紙を湖に流し、波間に沈むまで見つめる日が何日も続きました。
 ある日のことです。姫は書き置きを残して、湖に身を投げてしまいました。
 姫の思いを初めて知ったお付きの人は、村人と一緒に湖の周りを捜しましたが、どうしても見つかりません。亡骸でもいいので見つけたいと、網を打って湖底も何日も捜しました。
 何カ月か過ぎた日のことです。御殿の近くで七色に光り輝く魚が、漁師の網にかかりました。
 「まるで、魚が十二単を着ているようだ」
 「きっと小千代姫の生まれ変わりに違いない」
 漁師は、網に入った魚を湖に放してやりました。
 この日からしばらくすると、大地震が起きました。姫が住んでいた御殿は、湖底に沈んでしまいました。
 御殿があった場所は「沖の瀬」と呼ばれ、今でも湖底に石垣が残っていると伝えられています。

<もっと知りたい人へ>
参考文献:児童向け「静岡県子どもむかし話」静岡県出版文化会


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