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地域通貨で地元に潤い お金の地産地消 高山で浸透中

2021年11月4日 05時00分 (11月4日 10時25分更新)

観光客が多い商店街でソフトクリームもさるぼぼ決済。このお茶販売店の75歳の店主(右)も自ら使っているという=岐阜県高山市で

事業者間取引拡大が課題

 岐阜県の飛騨・高山地域で四年前からスタートしたデジタル地域通貨「さるぼぼコイン」。十月末、地域最大の観光地の同県高山市を訪ねると、多くの店舗にコイン使用可のステッカーがはってあった。飛騨信用組合の普及策が功を奏しているのか? 街を歩いた。(中島健二)
 「地元の人が使い始めている。初めの一年ほどはまだまだでしたが二、三年目からぐっと増えた」とはJR高山駅前で生花店を開く坂本大作さん(60)。「観光客は(大手スマートフォン決済の)ペイペイが多いが地元の人はさるぼぼ。特に高齢者は使いやすいようだ」とみる。観光客でにぎわう中心部でお茶販売店を営む羽根朋昭さん(75)も「月に二万円ほど入金しながら買い物に使う」そうだ。

岐阜県高山市内を歩くとよく目立つ「さるぼぼコイン」のステッカー。多くの店で地域通貨が使える=同市で

 昨秋、市内で最初にさるぼぼコインによる20%還元キャンペーンを行った高山安川商店街振興組合理事長の川上淳さん(59)によるとキャンペーン後に利用者が大幅に増えた。「狭い地域だからこそ浸透しやすい。ほとんどの人が飛騨信用組合に口座があり、多くの店で使える。もっと増えていく気がする」との見方だ。
 同信用組合が最大課題とする事業者間取引でのコイン活用にも動きが見える。
 古民家で料理店「雨音(あまね)」を開く山東睦央(むつお)さんは支払いをコインで受ける一方で、酒類の仕入れをコインで支払う。「お客さまがコインを使い、私たちも地元の業者からの仕入れに使う。地元でお金が回るように」との思いからという。
 食品全般卸の高山米穀協業組合の桑谷康弘理事長は「商品を卸す旅館などの顧客はコインで支払うが、卸の私たちはコインを使うところがない。換金すると手数料がコインを使うより高い」。実情は厳しいが「顧客の支払いの多様化に対応する。さるぼぼを扱うことで他から買っていた商品をうちから買うということもある」と利点を感じ使っている。
 地場スーパーの駿河屋はさるぼぼコインを開始当初から使える。市内の主婦(70)は一年前から使っているそうで「飛騨信で定期預金口座を作った時にポイントをさるぼぼコインでもらってから使っている。小銭を出さなくていいので便利。納税にも使っている」。今や手放せないようだ。

さるぼぼコインを進める飛騨信用組合の山腰和重専務理事=岐阜県高山市の飛騨信用組合で

「運営の飛騨信組」導入あるなしで格差に

 全国から行政などの視察がひっきりなしの「さるぼぼコイン」。運営するのは飛騨・高山地区ではトップシェアの金融機関である飛騨信用組合。その計画段階から関わり続ける山腰和重専務理事に聞いた。
 −導入した理由は?
 「高山は観光客は多いが人口は怖いほどの勢いで減っている。地域を元気にするため考えた方策がこれ。当初はQR決済がまだ珍しく、私たち自身、こんな面倒なものを日本人がやるのか半信半疑だったが開始前に職員自ら試験的にやってみたところ、慣れれば大丈夫と分かった」
 「窓口や渉外で案内したら徐々に認知されてきた。地元のスーパーマーケットで使ってもらったのが大きい。以来、納税やタクシー運賃支払いもできるようになるなど利用が広がった。コロナ禍の経済振興策でも使われ、多くの商店街で還元キャンペーンもやった」
 −さるぼぼコインのコンセプトは?
 「お金の地産地消。個人的にはシビックプライド(市民の誇り)の醸成にもつながると考える。地域通貨がある地域とない地域では将来、地域間格差が出るのではとさえ思っている」
 −地域通貨が増えているが、生き残る秘訣(ひけつ)は?
 「ビジネスモデルとして自走できるかが大事。行政が資金を出し続けないと成立しないモデルもある。要は一定程度のボリュームにすること。うちは金融機関だけだが、行政と経済団体も組めば非常に早くボリュームに達すると思う」
 −事業所間取引拡大に力を入れている。
 「うちの最大の課題。お店が仕入れ先にコインで支払うと、卸にコインが集まる。卸は(使う相手がないので)コインを受け取りたくないという構図になる。このため事業所専用アプリの開発や給与のデジタル通貨受け取りも考えている」
 −大手スマホ決済アプリをしのいでいるという。
 「近所のたばこ屋でも飲み屋でも使えるのがさるぼぼの強み。大手は小さなところは開拓していないので高山なら圧倒的に使い勝手がいい。ただ、域外へ行く時は大手も使うし地元ではさるぼぼを使う。そういう使い分けが広がると思う」

ラーメン店で「ミラペイ」のスマホアプリを使い支払いをする市民(右)=魚津市の「梵天楼」で

魚津市なども開始 普及図る お金 市外流出食い止めへ

 特定のエリアで流通される地域通貨は、県内でも自治体や商工会議所などが実施しているところがいくつかある。このうち魚津市が7月から始めた「ミラペイ」はスマホとカードで使える電子地域通貨。10月の段階で通貨が使える加盟店舗が185店、利用者は約6000人に達するという。
 導入した理由は市外へのお金の流出。市によると、地域で生まれた所得が地元で消費される地域経済循環率が2010年の98%から15年には85%へ急減。実に266億円が流出したことになる。この流れを食い止める切り札が地域通貨。11月までは30%のプレミアムを付けており、普及を図っている。
 市はスマホ操作が難しい高齢者のためにカードも発行。現在は大半がカード利用者だが、市はサービスなどを提供しやすいスマホ決済を増やす意向で、優遇策を講じている。
 目標は年間流通額が現在の10倍に相当する20億円だが、加盟店舗数の伸び悩みが課題という。その中で行政サービスへの拡大や地元信用金庫との連携も進めており、市商工観光課の前田久則主幹は「市民のそばにあるような決済システムにしたい」と目標を掲げる。
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