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三ケ日みかん 革新の軌跡

のるかそるか<上> 三ケ日方式で選果場建設

井口義朗さん

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 熊本に向かう新幹線の車中で、三ケ日町農協の柑橘(かんきつ)課長、井口義朗(56)=現代表理事専務=は思いあぐねていた。

 「何が今、一番の問題なんだろう…」

 東洋一とうたわれたマンモス選果場の完成(一九七五年)からわずか二十年余。輸入自由化で新たなライバル・米国産果実も加わった競争激化の中、高品質ミカンの出荷体制を支える選果システムの再構築が早くも迫られていた。課長就任直後の九七年には正副組合長、出荷組合役員らによる選果機改善委員会が発足。その事務局を務める井口は、設備の大幅改修か、より負担を伴う全面更新かの議論の中で、支部説明会や先行産地の視察に明け暮れていた。

 視察先の一つ、「河内晩柑(かわちばんかん)」や「デコポン」で知られる熊本市河内の農協選果場は、目を見張るばかりの威容を誇っていた。農家が持ち込んだミカンがベルトコンベヤーの上を滑るように走り、光センサーで外皮の傷や汚れはもちろん、糖度まで瞬時に測り、等級を振り分けていく。これまで人間の目や感覚に頼っていた品質評価を全自動化した新鋭設備に圧倒されながら、井口はしかし、どうもしっくりこない。

 センサーの精度にしろコンベヤーのスピードにしろ、これまで見てきたどのメーカーも期待以上に優れていた。選果のレベル、つまり品質設定は目盛り一つでどうにでもなるし、各メーカーの技術が平準化している中で、それは選択の基準にならない。

 三ケ日町は、かつての広大な国有林払い下げなどで、一戸当たりの栽培面積が他産地より広いという事情があった。このため、収穫時の運搬や出荷用に農家の大半が二トントラックを持っているほどだ。出荷組合の代表委員として選果機改善委に加わった夏目欽至(72)=同町鵺代=が言う。

「あのころは各農家が家で四つの等級にえり分けて選果場に運び込み、等級ごとに順番待ちでホッパー(貯留槽)に空けて帰る。重さ二十〜三十キロのコンテナが二トン車に積み上げると約九十コンテナ。それを多い人は一日往復五、六回という大変な労力だった」

 静岡県東部のある農協を視察したときのことだった。最新鋭の選果場に、一台の古いトラックがミカンを満載してやってきた。その運転席と助手席から降りた高齢の夫婦に、井口の目はくぎ付けになった。どうするんだろうと見ていると、荷台に山積みのコンテナを、腰が曲がりかけた二人が、一つ一つ重そうに両手で抱え、おぼつかない足取りで降ろしている。

 「『これだ』って、そのときやっと気付いたんです。問題は選果のスピードやセンサーの精度じゃない。この重労働を何とかしない限り、高齢化と後継者問題を抱える三ケ日みかんに将来はない。新しい選果場は絶対、よそのまねでない三ケ日独自の方式でいくべきだと」

 生産者の立場に立った三ケ日方式とは−組合員の理解を得て全面更新の方針が決まった改善委で、ただちにその模索と実験が始まった。

=敬称略

(編集委員・八木義弘)

 

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