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静岡経済 ヒットの系譜

スズキ 初代「アルト」

◆工夫満載 一人前の軽

初代アルトのデザインを担当した元スズキデザイン部長の吉村等さん=浜松市南区のスズキ歴史館で

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 「A地点からB地点への移動手段という機能に徹した廉価な車を提案した。デラックスカーの時代に一石を投じたんだ」。一九七九年にスズキが発売した軽自動車「アルト」を、鈴木修会長兼社長は、こう振り返る。

 発売から三十年以上がたった二〇一一年。軽自動車の販売台数の年間ランキングで五位に入るロングセラーだ。一二年七月末時点の累計販売台数は、五百十八万台。同社の全車種で累計で最高の売上数を誇る。

 〇九年まで同社でデザイン部長を務めた静岡文化芸術大教授の吉村等さん(64)にとっても、外装や内装のデザインを担当した初代アルトは、「忘れられない車」の一つだ。

 鈴木会長の「四十五万円以下の価格」との号令で開発は進められた。後部座席の背板はベニヤ板で、じゅうたん製が多かったフロアマットはゴム製。華美な装飾は徹底してそぎ落とした。当時としては、破格の四十七万円の全国統一価格で発売。爆発的なヒットとなり、一家で二台目の「セカンドカー」市場を切り開いた。

 吉村さんは、「上級車の小型版で、豪華そうに見える安物より、日常の道具として合理的で、無理のないデザインを目指した」と振り返る。後部ドアの窓は当時、下辺が斜めの台形が流行していたが「小型車だと見えにくいだけ」と水平な四角形にした。

 もちろんコスト削減の工夫は、デザインでもあちらこちらに張り巡らせた。内装のダッシュボードは単純な一体成型の樹脂製。「少しでも魅力的にしたい」と、上部と計器部の間に区切り線を入れて、複数の部品で構成されるように見える工夫をした。ボンネットを開けるボタンをエンブレムにして、装飾と機能を両立させた。

 初代アルトで具現化した実用本位、機能に徹したデザインは、その後のスズキ車の「モデル」となった。一九九三年に発売した軽自動車「ワゴンR」では、吉村さんは、デザインのとりまとめ役を担当した。

 当時横長が主流だったヘッドランプは、存在感のあるように縦長に。屋根を後ろ上がりにして後部空間やバックドアの間口を広くした。「これまでの車づくりの真反対だったが、当時の若い人は車にステータスよりも役に立つかどうかを求めていた」と吉村さん。同社の主力車の座をアルトから奪う売れ行きとなり、背高型のデザインは現在も軽市場では主流となっている。六日には五代目となる新型「ワゴンR」が発表される。

 軽自動車市場をけん引してきたアルトとワゴンR。吉村さんがデザインに込めたのは、「大型車が上で軽が下というヒエラルキーを感じない、一人前の車にしたい」とのメッセージだった。

(矢野修平、写真も)

 

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