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掛川西高100周年 天守の杜に

第3部 人物史編 恩師の一言

一生に大きな影響 強烈な印象、命題にも

、「美的体験」をテーマに彫刻に取り組む水谷靖さん=東京都内で

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 尊敬する恩師の一言が、生徒の一生に大きな影響を与えることがある。そんな掛川西高OBの体験を二つ紹介してみよう。

           ◇  ◇

 「世界史が好きで、高校の社会科教師になろうと思っていた。それが一転して心理学の道を歩むことになるとは…」。広島大教育学部教授の高橋超(すすむ)(昭36卒)は苦笑いを浮かべる。

 大学進学者は学年全体の三割未満で、進路指導もざっくばらんな雰囲気で行われていた三年生の五月。歴史を学ぶ楽しみを知った高橋が教師志望を伝えると、担任の片山盛燿は「高校教師用の専門課程があるのは広島大か東京教育大だけだ」と助言をくれた。そして何気なく付け加えた一言。「これからは人間が研究対象になるときがくる。教師もいいが、心理学を勉強してみたらどうか」

 ほんの数分間の会話だった。が、「全く聞いたことがない心理学という言葉に強烈にひかれた」。心理学を勉強しながら教職課程も履修できると分かり、“二足のわらじ”を履く気分で広島大へ進学する。

 米国の新しい理論や研究方法の導入が進み、全国で心理学研究者の需要が急増した時期とも重なった。生理的な事柄は解明できても、心の動きは予測しがたい−。その面白さにどんどんのめり込み、高橋は結局、教職は断念する。「あの一言のせいで、こんなに長く心理学にかかわろうとは夢にも思わなかった」

 最近は子どもの問題行動を研究している。中高生の進路選択の仕方も調査対象だ。「年々、数字だけに左右される傾向が強くなる。先行きが混乱している時代だからこそ、昔のようにこの勉強がしてみたい、この職業に就きたいという希望を持って選択に臨んでほしいと強く思う」

             ◇  ◇

 昭和四十四年、掛川では珍しいほど大雪に見舞われた日。美術教諭の鈴木幾雄(昭15卒)=掛川市=が教室に駆け込むなり興奮した声を放った。「何をやってる。この雪景色をかいたか?」

 「おかしな先生だなと思っていました」と語るのは東京芸術大講師の水谷靖(昭45卒)だ。「髪を伸ばし放題にしていたと思ったら、いきなり丸刈りにする人でしたからね」

 水谷が三年のとき、掛川西高で学園紛争が起こる。「学生たちが学校に対する不満をぶちまけ、『何かがおかしい』と自分たちを検証する時代でした。闘争と一線を画していた私にできることは造形や彫刻でした」

 木の机をピンクに塗った後にばっさりと切ってみたりと、校内の雰囲気を吸収して作品は自然と挑戦的、実験的なものになった。「一つの作品を作り終えても満足せず、常に新作を求める意識も生まれた」

 美術に打ち込む毎日を送っていたある日、鈴木が不意に問い掛けてきた。「君は美的体験をしたことがあるのか」と。満足に答えられなかった水谷の頭の中に、常に美を見つけようとしている鈴木の姿勢がフラッシュバックし、雪の日の興奮ぶりをやっと理解した。

 その体験から、進学先は鈴木の出身校である東京芸大を選んだ。十年来取り組んできた寄せ木彫刻も、物を分解し、再構成する高校時代の美術の授業が影響しているという。それ以上に「いまだにあのときの質問が頭から離れません。答えを出すために今もずっと、あの問いを命題に制作し続けているんです」。

(文中敬称略)

 

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