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東日本大震災6年 まちづくりから減災を考えるシンポジウム

減災 市民こそが主役 企業・行政 総力で備え

 産官学それぞれの立場から、地域防災の歴史や現状、未来の姿を話し合う「まちづくりから減災を考えるシンポジウム〜未来の子どもたちに残すもの」(中日新聞社主催)が2月27日、名古屋市北区の愛知学院大名城公園キャンパスで開かれた。東日本大震災から6年を迎える中、出席したパネリストは南海トラフ巨大地震への備えが必要な中部地方の防災をテーマに、度重なる災害を乗り越えて発展してきた地域の歴史や現在進む対策、課題について活発に意見を交わし、次世代へのメッセージを残した。シンポジウムの議論を詳報する。

パネリスト

国土交通省中部地方整備局企画部長 岡村次郎氏
岡村次郎氏
国土交通省中部地方整備局企画部長
中部経済連合会審議役・調査部長 川瀬康博氏
川瀬康博氏
中部経済連合会審議役・調査部長
名古屋ガイドウェイバス社長 田宮正道氏
田宮正道氏
名古屋ガイドウェイバス社長
名古屋大教授・減災連携研究センター長 福和伸夫氏
福和伸夫氏
名古屋大教授・減災連携研究センター長
名古屋学院大・カフェ&ベーカリー「マイルポスト」店長 大西涼介氏
大西涼介氏
名古屋学院大・カフェ&ベーカリー「マイルポスト」店長
コーディネーター/中日新聞社編集局社会部長 寺本政司
寺本政司
コーディネーター/中日新聞社編集局社会部長

商店街で安心の関係

寺本政司・社会部長 「まちづくりから減災を考える」が今回のテーマ。まずは地域での具体例を。

大西涼介さん 名古屋学院大の学生カフェ(名古屋市熱田区)を拠点にまちづくりをしている。店は地元の日比野商店街に所属していて、町内会の掃除を毎月したり、学生参加で商店街会合を開いて話したりしている。多世代共生型サロンは昨年5月に始めた。地域の住民を集め、一緒にワークショップをしたり昔遊びを教えてもらったりする。最近は関係の希薄化で隣の家の人の顔も知らないケースが増えてきた。サロンは孤独死や災害の逃げ遅れを防ぐための関係づくりの場。

 今は子ども向けに避難所運営を体験するゲームを開くなど、避難所運営に焦点を当てた活動をしている。ハザードマップで日比野の通学路を見て、大学の近くにはこんなにも危険な場所がたくさんあるんだと驚いた。

強靭な街・共助の地域

寺本 日比野地区は伊勢湾台風でも被害を受けた。過去の災害から立ち直って今の名古屋がある。

田宮正道さん 名古屋の地形は中央に地盤の固い台地があって、東部に丘陵地、北部から西南部にかけて地盤の軟弱な沖積平野などが広がる。まちづくりの歴史は徳川家康が城を移したことに始まる。城下町から産業都市へと発展する中で区画整理によって計画的に市街地を整備し、市民生活と都市活動を支えてきた。何度も火災や戦災、自然災害による大きな被害を受けながら大胆な復興を遂げ、安全で安心なまちをつくってきた。

 名古屋市では行政によるハード対策だけでは大規模な災害を防ぎきれないという認識で、市民、企業、行政の総力で備えるということを掲げている。行政としてはインフラの耐震化などの防災機能を強化して強靱(きょうじん)な市街地づくりを進めつつ、市民一人一人が自らを備え、守る自助力の向上や助け合うために地域コミュニティーの醸成を支援する取り組みを進めていこうとしている。

記憶を語り継がねば

寺本 中部地方は製造業が非常に盛ん。企業ではどう防災、減災に取り組んでいるのか。

川瀬康博さん 東日本大震災ではサプライチェーン(部品の調達・供給網)の寸断というのが起きた。中部経済連合会(中経連)の会員にアンケートしたところ、影響を受けたという回答が64%。回復の軌跡を見ると、災害が起きてから、影響がなくなったと思えるまでには6カ月はかかっている。

 経済界としては防災力、減災力、回復力を重視し、自助の部分で考えることを事業継続計画(BCP)と呼んでいる。基本方針や想定リスク、組織体制などの項目を記載する。付随するものとして事前対策マニュアルなどを装備するのが基本的なイメージ。拡張したものが地域連携BCPで、地域の方々や公の方々を含めて地域社会を守っていこうという考え方。企業としても積極的に参加していく。

 国の調査では、策定する企業が増えてきている。だが中堅企業ではまだまだ策定している企業は少ない。施設の防災・減災対策の実施状況のアンケートでは、製造業では62%がまだまだ不十分だと認識している。仕入れ先の供給態勢は信頼がおけるかとの調査では、「十分信頼できる」と答えた企業は少なかった。

日ごろの訓練が力に

寺本 国の視点から見て、中部の取り組み状況は。

岡村次郎さん 中部地方整備局は愛知、長野、岐阜、静岡、三重の5つの県にまたがってインフラ整備をしている。急峻(きゅうしゅん)な地形、急流河川、脆弱(ぜいじゃく)な地質があり、降水量は全世界平均の約2倍。濃尾平野はわが国最大のゼロメートル地帯。全国主要活断層の25%に相当する活断層が集中している。

 昭和東南海地震、伊勢湾台風、東海豪雨、御嶽山の噴火などさまざまな災害が発生している。南海トラフ地震は今後30年間に70%の確率で発生するといわれており、地震が発生するとどのような災害になるのかを、あらかじめ考えておくのが大事。揺れだけでなく、津波もやってくる。堤防などが崩壊する最悪の想定をすると、名古屋市の2割程度が浸水する恐れがある。

 揺れで堤防が壊れることがないようにする液状化対策や、橋梁(きょうりょう)の耐震補強などの対策をしている。中部地整だけでできるものではなく、中部圏のありとあらゆる組織が連携して対処していかなくてはいけない。そのために、学識者や地方公共団体など130の構成員で中部圏戦略会議をつくっている。的確に情報共有して、意思疎通を図れるような態勢を構築するよう進めている。

地方から議論主導を

寺本 4人の意見のまとめを。

福和伸夫さん 都市としてのまちづくり。個人、隣近所のまちづくり。国土計画的なまちづくり。今日は異なる立場の話が聞けた。

 この地区は日本一の産業拠点であり、企業立地のことを頭に入れてまちづくりを考えざるを得ない。サプライチェーンの1つでも被災すると大きな影響を受ける。地域の全ての力を発揮させないといけない。自らの命は自ら守る。近所も助け合う。公もできる限り頑張る。三位一体で動いていくことだ。

 堤防などを造って災害を抑え込む防災は、われわれを救ってくれたが、それだけでは難しいと東日本大震災で学んだ。起きたとしても波及を減らそうということで、減災という考え方が出てきた。

 江戸時代以前は少しでも危険の少ない場所に集落をつくることで災害を減らしてきたが、徐々に技術を持つようになり、災害に負けない強さを持つことで抵抗力を上げてきた。どちらを優先するかは時代で違う。公でやること、私でやることのバランスも重要になる。

 一番よく考えてきたのが名古屋。東京、大阪は危険なところに大事なものをいっぱいつくった。控えめな名古屋人は名古屋駅に全部持っていかずに、栄地区にも大事なものを残した。東京、大阪は古い建物を高層ビルに建て替えているが、名古屋人は昔のものを維持。とても安全な台地の上に、背の低い実力の高い建物を残す堅実さが出ている。災害をバネに安全な100メートル道路と三の丸官庁街をつくった。東京や横浜、大阪地区に比べ、相対的に地震リスクが低いと世界も認めている。

 名古屋は多重の物流で日本のへそのような存在であり、豊かな自然と歴史がある。最小のメガロポリスで最大の地方都市。だが、まちを作る過程で熱田台地だけでは手狭で、相対的に危険度が高い場所へと広がった面は否定できない。きちんと理解した上で次の世代にバトンタッチしていくことが大切。

 名古屋大の減災連携研究センターや自治体、企業が集まり、このまちをどうつくり直すかという議論を始めている。名古屋のフューチャーデザイン。東京一極集中、五輪後の日本を考えると、それぞれの地方都市が元気にならないといけない。自律分散協調型社会で、名古屋は先頭ランナーとしてうまくやっていかないといけない。


寺本 減災を考えるキーワードは。

田宮 「他人ごとから自分ごと、そして地域協働へ」。市も地域の役員と戸別訪問して木造住宅の耐震診断を勧めるなど地域ぐるみの耐震化を目指している。市、県、国はさまざまな支援メニューを用意している。みんなのこととして防災・減災に取り組んでもらえれば。

岡村 「あらかじめ準備しておく」。災害は非日常。普段起こらないことが起こる。東日本でも思い知らされた。日ごろの準備や訓練がいざというときの力になる。自助、公助、共助、全てで大事。

福和 「名古屋が日本を救う」。400年前に日本を立て直したのは三河人。東京でも大阪でもない、三男坊である名古屋の強さがある。日本は基本、まちごとに自立し、お上に頼らずにやってきた。そういう感性を引き継ぎやすかった私たちの地域は、東京的でない発想をまだ持っている。

寺本 副題である「未来の子どもたちに残すもの」は。

川瀬 「取扱説明書のいらないまちづくり」。最近の家電製品は説明書がなくてもだいたい操作できるようになっている。名古屋のまちも「この道をたどれば開ける場所に出るかも」と、道や建物が語るように、まちの造形の段階からつくっていく。

 もう1つは「記憶の語り継ぎ」。東日本、阪神大震災など各地の災害で新聞などから得た教訓を子々孫々に語り継ぐことが大切だ。

福和 「残さないものと残すもの」。残さないものは借金、残すべきものは夢。将来に希望を残してあげるため、壊れないまち、壊れない社会が大前提だ。

大西 「シビックプライド」。郷土愛とは少し異なり、自分たちが当事者として主体的に名古屋のことを考え、自負心を持って名古屋に住むこと。今までは国や行政がまちづくりをしてきた。これからは「私が名古屋」というプライドを持ち、僕たち市民が考えて動いて、まちづくり、人づくりをしていくことが重要だ。

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